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代替案

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最後の一基に関しては、急造品であるが故にタービンそのものが本来要求される品質に満たないものであったことから偏摩耗が起こり、タービン自体を交換する必要があると既に判明していた。しかし、

「今の我々の技術では、必要な品質のタービンを作ることができないのだ」

仁左じんざの言葉を受けてひめが提案したのは、

「それでは、私が手伝いますから作れる大きさのタービンを作りましょう。そのタービンで今のより小さい発電機をいくつか作って代わりにすればいいと思います」

と、大型のタービンを新造するのは容易ではなかった為、代替案として小型のタービンを作りそれを順次新設することでそちらに切り替えていくという解決方法が取られることになったのだった。

もちろんそれも仁左じんざ達も考えてはいたのだが、それでさえ現在の技術では製造が困難だった為に何度か試されては頓挫してきたことだった。

が、技術が足りない部分はひめが補う形で新しいタービンが作られ、それを基に発電機が建造されていく。

これにより、複数に分割した為に従来のものに比べれば理論上の効率は下がってしまうが、実際には稼働率が落ちていたことによりそれは意味をなさず、実質的にはこれまでを大きく上回る発電量が安定して供給されることとなった。

「ありがとう。ありがとう」

普段はあまり表情を作ることのない、仁左じんざはじめとした発電所のスタッフ達も、うっすらと目に涙を溜めつつ何度も感謝の言葉をひめに送った。

「いえいえ、これが私の役目ですから」

やはりにこやかに笑いながら、ひめは手を振って恐縮する。

一見、あどけなくも見える少女のような姿をしたひめに対して何人もの大人がそうしている光景はどこかシュールにも思えたが、彼らにしてみれば『世界が救われた』にも等しいことなので、ある意味では当然だったのかもしれない。

その報告を受けた市長の舞香まいかも、

『世界がひっくり返るとは、このことだったか』

と静かに感銘を受けて、近しい者達とささやかに祝杯を上げたりもした。

<褒賞>として、普段は舞香まいかですらあまり口にすることのない魚などの超高級な食材が贈呈され、

「これは…!?」

浅葱あさぎを絶句させた。何しろ、<海>とは名ばかりの、過冷却された地底湖での漁はあまりに危険すぎてほとんど行われていなかったからだ。

「私は食べられませんので、皆さんと一緒に食べてください」

こうして、重蔵じゅうぞう圭児けいじ遥座ようざ開螺あくららをはじめとした砕氷さいひ仲間を招いての酒宴が行われたのだった。

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