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まずは状況を整理

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取り敢えず俺達がいた場所は、差し迫った危険もねえってことで、でかい葉っぱを使って簡単な服を作ってまずは状況を整理するってことになった。

と言っても、分かってることといえば、場所については、

『ここがどこなのか誰も分からない。俺達が不時着した惑星の別の場所なのか、それともさらにもっと別の場所なのかも不明』

『呼吸はできているが、ここまでに見付かっている植物は、惑星探査メンバーの中の植物学者も知らない新しいそれだということだから、たぶん地球でもないし、他の植民惑星でもない』

『湖には魚もいるが、こちらも、動物学者が見たこともない魚』

ってことくらいで、それ以外は何も分からない。だが、それ以上に問題なのが、

「まるで<転送>されたかのように我々がこの地に現れたことだ」

リーダーのレックスが言ったことだった。

「知ってのとおり転送技術はまだ理論段階だ。それが実用化されたなどとという情報はまったくなかった。しかも受信機さえない状態で、人間のような複雑な存在を完璧に転送できるなどということは、到底考えられない」

と言うとおりだ。俺は馬鹿だが、レックスの言ってることが正しいことくらいは分かる。しかもレックスは、

「このことから私はある結論を導き出すしかできなかった」

とか言い出す。だがそれに対しては、

「持って回った言い方してんじゃねえよ! はっきり言いやがれ!」

お偉い学者先生の言い回しってのはやつはどうにもまどろっこしくていけねえ。だからついそう口に出ちまった。

そんな俺に、レックスは、

「ああ、そうだな。まず結論を提示しよう。ここは<高度シミュレーター>の中で、我々はすでに死んでいて、<データヒューマン>としてこの場にいるということだ」

さすがにはっきり答えてくれた。

<高度シミュレーター>ってのは、専門的なことは俺は知らねえが、要するに、現実とほとんど区別のつかねえとんでもなくすげえシミュレーターのことで、<データヒューマン>ってのは、高度シミュレーターの中でホントに生きてる人間みてえに暮らしてる<データ上の人間>ってことだ。

まあ、理屈の上じゃそういうことなんだろう。いくら俺が馬鹿でもそのくらいのことは分かる。

けどな、

「ああそうかい! だが俺には自分がただのデータだってえ実感はねえ!」

言いながら、ガツンと自分の頬を殴る。その衝撃と痛みははっきりとあるんだ。なら、

「こうして殴りゃ痛えし、腹も減りゃクソもする! ただのデータとか言われても俺にゃそんなのは関係ねえな!」

ってこった。

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