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本当にこの世の終わりかと

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そいつはまず、行道ゆきみちを狙ってきた。カマキリ怪人だしまだガキだし、弱い所を選ぶのは当然だな。遊びじゃねえのなら俺だってそうする。

気付いた時にゃもうカマで掴まれる寸前だった。もちろん黙って見てるつもりもねえから俺も反応したけどよ、蟷姫とうきに続いて行道ゆきみちまで失うんじゃねえかと思ったら、本当にこの世の終わりかと思ったぜ。

なのによ、行道ゆきみちは相手のカマをかいくぐりつつ足を跳ね上げて、喉に一切容赦のねえ蹴りを叩き込みやがった。

正直、行道ゆきみちが上半身を沈み込ませた時には、一瞬、見失いかけたくれえだ。

そしたら相手の首が有り得ねえ角度で曲がってよ。一目で死んだと思ったぜ。

覆い被さろうとする形だった所にカウンター気味で入ったから余計に威力が増したんだというのはあっても、いやはや本当にとんでもねえ化け物だよ。我が息子ながら。

けど、それでもあの恐竜怪人みてえに目についたもんを片っ端から食うわけじゃねえから、まだマシなんじゃねえかな。

たぶん。

頼もしいと同時に肝も冷やしつつ、

「やるな、行道ゆきみち!」

と声をかけても、

「……」

いつも通り表情ひとつ変えねえ。けどまあそれがこいつだからな。別に構わねえさ。

その時は腹も減ってなかったみてえだから食うわけでもなくそのままにして巣に帰る。

平然と当たり前のように普通にしてるだけの行道ゆきみちの姿を見ながら、

蟷姫とうき、お前の子はこんなに立派に育ってるぜ。本当に大したもんだよな。



それでも行道ゆきみちは俺に挑みかかってくる。自分を鍛えようとしてるのか、それとも単に甘えようとしてるだけなのか、俺にもよく分からねえ。

けどよ、行道ゆきみちがそれを望むんなら、俺は応えてやらなきゃいけねぇだろ。あいつをこの世界に送り出した親なんだからよ。俺は。

納得するまで親に相手してもらえなかった奴がいつまで経っても大人になれねえそうじゃねえか。あいつにとって俺がもう相手にする必要もねえのになりゃあ、勝手に見捨てていくんじゃねえかな。

親なんざ、そんなもんでいいんじゃねえか? 特にここじゃあそういうもんだろ。

野生の獣が歳取った親の面倒を見るか? 群れを作るようなのだったら見捨てねえのもいるかもしれねえけどよ、それは『親だから』ったえよりも『仲間だから』ってえことじゃねえのかな。

あの<白ウサギのコスプレザル>もよ、歳取った感じの奴も群にいて、別に、追い出そうとそれ出るわけでもねえしな。

と思ったら、

『ああ、そういう意味もあんのか』

ってえ思わされることがあったよ。いやはや実に合理的だってえもんだ。

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