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考えるだけ無駄か

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こうして何で俺が透明な体でここに現れたのかってえのがいくらか分かったけどよ、あの<透明な得体の知れねえ怪物>がそもそも何なのかってえことまではさすがに分かりそうもねえな。元々ここにいる奴だったら、それこそ分かりようもねえ。

とにかくあのやべえ奴が川にいることだけは分かったんだしよ、後は近付かねえようにするだけだよな。

とにかく不定形の状態じゃあ触っただけでアウトでも、決まった形をとりゃあ、透明なだけで他は普通の動物と変わりねえのは、他でもねえ俺自身の体とあの透明な恐竜怪人で確認済みだ。だからさっきも咄嗟に応戦しちまったわけで。

あの透明な得体の知れねえ怪物から感じるヤバさは、恐竜怪人や、エドナそっくりの部分を持ってた奴や、ジャックからは感じなかったってのもある。

なんであんなことになるのかってえことまでは考えるだけ無駄か。

なんにせよ、今後は川に近付く意味もねえし、これくれえでいいだろ。

それからは、とにかくおとなしく普通に毎日を過ごしてた。行道ゆきみちとも、そんなに関わるわけでもねえ状態で、なんとなく一緒に暮らしてるだけだ。

でも、悪くねえ。狩りをして食って糞して寝る。それだけで何の問題もねえ。後は行道ゆきみちの成長を見守ってられりゃな。

そうしたらよ。蟷姫とうきそっくりだったあいつがな、どんどんイカつい感じになっていったんだよ。それこそ見た目には十五くれえになったあたりからな。

たぶん、俺に似てきたんだろうな今度は。<母親似の可愛らしい感じの男の子>ってのもよ、でかくなるにつれてどんどん父親に似てきたりすることも多いじゃねえか。要するにそういうことなんだろうなあ。いやはや可愛げがねえ。

けどよ、それがなんか嬉しいんだよな。自分に似てきてるってのが、嬉しいんだ。『自分がいたからなんだな』って、『自分が父親だからなんだな』って、ふと思っちまったりもするんだよ。

そしたらな、麻沙美のことも改めてグッときちまってなあ……

『歳を取ると涙もろくなる』みてえな話を聞くもの、まさにこういうことなのかもしれねえ。

でもな、気分は悪くねえ。それと同時に、俺の役目がいよいよ終わりに近付いてるんだろうなあってえ予感がはっきりしてきやがる。

この体になっても老化抑制処置の効果はあるみてえで、肉体自体に衰えは感じねえんだけどよ、そうじゃねえんだよな。そういうことじゃねえんだ。

「……」

俺を見る行道ゆきみちの目にもよ、含むところがあるのが分かってきちまったんだよなあ。

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