オオカミ竜・ジャック ～心優しき猛獣の生き様～

ジャック

後に＜ジャック＞と仮称を付けられることになるその個体は、オオカミ竜オオカミと呼ばれる獣の一頭だった。

＜オオカミ竜オオカミ＞は、その名の通り、オオカミに似た生態を持つ、しかしオオカミとはまったく別の種だった。地球では＜恐竜＞と呼ばれる巨大な動物が存在したと言うが、オオカミ竜オオカミはその＜恐竜＞が大絶滅を起こすことなく進化を続け、小型化に舵を振った種がたどり着いた姿だと言えるだろう。

外見上は、＜ヴェロキラプトル＞という恐竜に似ていた。全身を毛皮に覆われ、頭頂高約百五十センチ。頭から尻尾の先までの長さ約二メートル三十センチ。体重約六十キロ。ヴェロキラプトルよりも大きく、がっしりとした体格で、特に前足はしっかりと＜手＞の役目を果たし器用に動いた。

前足と後ろ脚の両方にまるで＜鎌＞のような鉤爪を備え、獲物を捕まえて逃さないと同時に、それこそ鎌のように相手を切り裂くこともできる。

そしてオオカミ竜オオカミの最大の特徴は、

『群れを成す』

ということである。少ないものでも十数頭、多いもので二十数頭にもなるその群れは、サバンナ様の特徴を持つ生息地においては、ほぼ最上位の捕食者プレデターであると見られていた。

群れに襲い掛かられると、オオカミ竜オオカミと同じく恐竜に似た動物から進化した、体高三メートル、体長五メートルの大型草食獣＜サイゾウ＞（サイにもゾウにも似ていることからこの名がついた）すら倒され獲物にされるという。

そんなオオカミ竜オオカミの中でも、ジャックは特に恵まれた体格をしていた。成体の時点で頭頂高百七十センチ。頭から尻尾の先までの長さ約二メートル七十センチ。体重八十キロという堂々たる体躯だったのだ、

それはもう、卵の時点で現れていて、彼の卵は、弟妹達のそれより一回り大きく、成長も早く、一番先に孵って、昆虫や小動物をモリモリと食べた。

けれど、彼自身は、後から孵った弟妹達を虐げるでもなく。むしろ邪魔にならないようにとてもするかの如く最も遠いところまで行って、獲物を捕らえた。

彼はそもそも争いごとは好きではなかったようだ。

その恵まれた体を使えば、弟妹達よりも遠くに行けて弟妹達では捕らえられない獲物が捕らえられて、だから何も困らなくて。

オオカミ竜オオカミは、比較的に幼体こどもを守る傾向にある動物だった。人間ほどは熱心ではないものの、外敵は幼体こどもに近付かせないようにするし、幼体こどもがはぐれそうになったらそっと掴んで連れ戻す程度のことはする。発達した前足はまさにそのためのものと言えるだろう。

しかもジャックは、生後一ヶ月もすると弟妹達よりも倍くらいの大きさに育ち、何と成体おとなの真似をするかのように、弟妹達の世話まで始めたのであった。