オオカミ竜・ジャック ~心優しき猛獣の生き様~

京衛武百十

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諦観は美徳じゃない

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キングの腹を破り、彼の内臓まで切り裂いていく爪を、ジャックは緩めることがなかった。そしてキングの首筋を捉えた顎の力も、緩めない。

一方、キングの方も、この不利な状況にあっても諦めることはなかった。野生において諦観は美徳じゃない。とにかく命が尽きる最後の瞬間まで生を掴み取るために足掻く。それが野生において『生きる』ということだ。人間のように、『潔い』なんて詭弁を用いてさっさと諦めることを、苦しみから逃れようとすることを、浅ましく美化しようとはしない。

脚をばたつかせ、頭を激しく振り、何とかジャックの力を逸らそうとする。そのすさまじい力に、ジャックも押し返されそうになるのを渾身の力で耐えた。ここで逃げられたらまたやり直しだ。ジャックも力を振り絞っているので、もうそれほど余力はない。

そして、彼は一気に力を集中させた。自身の顎に。

「ゴギンッ!!」

湿った柔らかいものの中で固いものが折れる音が顎に伝わり。キングの体がビクンっと跳ねる。そして続けて不規則に痙攣を始める。

頸椎が噛み砕かれたのだ。それに伴って神経も断裂。意味のある動きができなくなる。

「ゴ……ゴエッ……フゴ……ア……」

キングの口から血の泡が凝れ出る。呼吸ができないのだろう。脳はこの状況を脱するためにフル回転しているのだろうが、すでに脳からの指令が体に届かなくなっている以上は、どうすることもできなかった。ただ無限にも思える時間を過ごすしかできない。自身の命が潰えるまでの、わずかではありつつキング自身にとっては無限にも思える時間を。

なのに、彼の目には諦めは見えなかった。この期に及んでなお生きようと、生きる機会を得ようともがく。

『生きる』

『生きる』

『生きるのだ』

とは言え、その想いはもはや届かない。最後の最後まで生きることを諦めないままに、キングの目からは光が消えていった。死が、その体を蝕んでいく。ビクンビクンと痙攣しつつも、それは死を止めることはできない。

ジャックはその気配を、キングの首をなおも噛みながら感じた。完全に命が尽きるのを確認するために。

やがて完全に動きを止め、その体のどこにも<最後の一暴れ>をするだけの力が残っていないのを確認し、足の爪で腹を切り裂いて内臓を溢れさせ、さらにその奥へと足を突っ込んでぐちゃぐちゃにかき回し完膚なきまでに<命を維持する機構>を破壊し、間違いなくとどめを刺し、その上で首の肉を引きちぎり、貪り始めた。

自身の子を食った張本人の肉を。

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