オオカミ竜・ジャック ~心優しき猛獣の生き様~

京衛武百十

文字の大きさ
30 / 95

すでに孤独

しおりを挟む
だがそうやってジャック達が平穏に暮らしてはいても、この世界というものはやはりシビアだった。

ジャックは基本的に今の生活に満足していたものの、ジャックの群れも困ってはいなかったものの、そうじゃない者はやはりいるようだ。

「……」

刺すような気配を察し、ジャックはそちらに視線を向ける。その先には、かろうじてその姿が確認できるだけの距離に小さく見えながらも、明らかに強い敵意が感じ取れる何者かの姿があった、

オオカミ竜オオカミだ。他の群れのオオカミ竜オオカミの姿だった。こちらの縄張りの少し向こう。先頭にひときわ強い目線を向けてくる者がいる。そちらの群れのボスだった。名を仮にジョーカーとしよう。

ジョーカーは、他の群れに合流するのではなくて、群れを巣立った雄達を集めて自らの群れを作り、そして他の群れを襲って縄張りを奪うという形で勢力を拡大していたオオカミ竜オオカミだった。

その経緯を少し振り返ってみることにしよう。



ジョーカーは、卵から孵った時にはすでに孤独だった。彼を生んだ雌がいたはずの群れの姿はすでになく、彼がいた巣の中にも、すでに孵った兄姉達が残した卵の殻と、孵ることのなかった卵がいくつか残されていただけだった。

なかなか孵らなかったことで見捨てられたか、仲間はこの寝床を捨ててどこかに移動してしまったようだ。

「……」

しばらく周囲を見渡したり、少し歩き回って様子を窺ったが、他には誰もいなかった。

なのでジョーカーは、仕方なく、孵ることのなかった卵を爪でがりがりと掻いて割り、中身を貪った。しかもそのうちの一個は、どうやら孵化寸前に死んだらしい、ほぼ形が出来上がった兄弟の死骸が入っていた。しかしジョーカーはそれを気にするでもなく、やはり同じように貪り食った。

こうして生き延びたジョーカーは、次に昆虫を捕えて食うようになった。孵化したばかりの体ならそれでも持ち堪えられた。

けれど、二週間も経つと、虫だけでは物足りなってくる。そこで彼は、時々、地面に空いた穴から顔を出す奴を狙うことにした。そいつからは旨そうな匂いがしてくるのだ。

「ヂッ!!」

だがそいつは、ジョーカーが襲い掛かろうとすると穴の中に隠れてしまい、捕らえることができなかった。しかも、ただ待っているだけだといつ顔を出すか分からない。待っていて、でも腹が空いて耐え切れなくなって虫を捕えていたらその間に顔を出したりして、慌てて襲い掛かろうとすると間に合わなかった。

その獣は、<土竜モグラ>と呼ばれている。生涯のほとんどの土の中で暮らし、掘った土を地上に押し出すために時折地面から顔を出すのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【短編集】こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

秘書と社長の秘密

廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。 突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。 ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...