悪魔を狩る者 ~ツェザリ・カレンバハの生涯~

京衛武百十

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ギャナンの章

このような惨状を

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「……」

まったく対照的でありつつ、しかしどちらもそれこそ得体のしれない<何か>に変わり果てた少女と神父を見つめながら、ギャナンはやはり死んだ魚のような目を向けていただけだった。恐怖や嫌悪といったものすらそこからは見て取れない。

そして、神父はもとより、かつては<少女>であったものも、まったく動く気配もなかった。もはや以前は人間であったと誰も気付かないようなものであったから、むしろ動いたりした方が異様だろうが。

やがて朝になり、雑事をこなすために訪れた信徒達が、いつまでたっても姿を現さない神父を不審に思い、彼の私室を覗いてみた。するとそこには、床一面に広がった血と、無数の刃物を組み合わせた血塗れのオブジェのようなものと、それに絡まるようにしてズタズタになった神父の服と肉片のようなものがあっただけだった。そして、部屋の隅に裸でうずくまるギャナンの姿。

「神父様…! 神父様、どこですか!?」

信徒は声を上げるが、当然、返事はない。

あまりに異様なその光景に、尋常ならざることが起こったと察した信徒は役人に事情を話すために街へと向かい、他の信徒達は、どうしていいのか分からずにただうろたえるばかりだった。中でも、少女の母親は、不自由な足を引きずり、

「マリー! マリー!! どこなの!?」

声を限りに娘の名を呼びながら、教会の周辺を歩き回る。

やがて、役人を通して派遣された軍が現場を見、血塗れの肉片こそが神父その人であると判断した。

「何が起こったのか、見ていた者はいるか!?」

隊長らしき男が声を上げるものの、目撃者はギャナンしかおらず、そのギャナンも、やはりあの死んだ魚のような目で見詰めるだけで何も話さず、

「ええい、まあ、このような惨状を目の当たりにしては無理もないか……!」

隊長は忌々し気にそう口にしながらも、幼いギャナンがショックで口がきけなくなったものと判断、とにかく、神父の体を切り裂いたと思しき<刃物のオブジェ>のごとき謎の物体を回収し、調べることにした。

が、

「うわっ!」

縄を掛けようとしても恐ろしいほどの切れ味でするりと切断してしまうので、やむを得ず鉄の鎖を掛けて吊り下げようとした途端、鎖すら切断して<それ>は床に落ち、そのはずみで床板さえも切り裂いて床下へと転落した。

「これはいったい、何なのだ……?」

隊長は呟くが、同時に、

『これほどの切れ味、剣に作り替えれば大変なものになりそうだな』

とも考えていたのだった。

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