悪魔を狩る者 ~ツェザリ・カレンバハの生涯~

京衛武百十

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ギャナンの章

インビジブル

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若い神父は、自分に何が起こったのかさえ理解していたなかっただろう。しかし、彼の延髄の辺りに突然穴が開き、一瞬遅れて、眉間にも穴が開いたのだ。

目に見えない太い<串>にでも貫かれたかのように。銃弾の場合には、こんな風にきれいに穴は開かないだろう。

それは完全に貫通した穴であり、その穴が開いた辺りは、脳のそれこそ中枢の、生命維持に欠かすことのできない機能を司る部位であり、そこが損傷すればたちまち死に至るものであった。だから、若い神父は苦しむことさえなく死ねたのだと言える。

さらに、彼を貫いていた<透明な串>が抜けたかのように体が床に崩れ落ち、しかも、足の方から徐々に消えていった。それこそ、空間そのものに呑み込まれて見えなくなっていくかの如く。

いや、実際に、目に見えない何かに吞み込まれていっているのだろう。こうして数十秒を掛けて若い神父の姿は完全に消え去った。

その後、若い神父を吞み込んだ<それ>は、信徒達が熱心に祈りをささげている礼拝室へと移動していく。

もちろん、姿も見えず音も聞こえず臭いもなく気配すらなく。だから誰も、気付くことができなかった。

神父らのための生活スペースへと繋がる扉が勝手に開いたが、それに気付いた者も、風か何かで開いてしまったのだろうと考えて気にしなかった。だが実際には風など吹いていない。こうして誰にも気付かれずに礼拝室に侵入した<それ>は最前列にいたあの少女の母親をまず餌食とした。

熱心に祈りを捧げていた母親の頭が穿たれ、ビクンッ!と体を震わせたものの一瞬で事切れた。しかし隣にいた信徒はその異変に気付かないままに続けて喉を貫かれた。だがこれはさすがに一瞬では死ねず、

「っは…! っぶっっ……!?」

声にならない声を上げつつ、自身の首を掻きむしった。そこにある何かを取り除こうとしたのかもしれない。さりとてそれは功を奏さず、ただ無意味にもがくだけだ。

さすがにこの異変には周囲の者達も気付き、

「え?」

「なに…っ?」

と戸惑うが、何しろ何も目に見えないのだ。少女の母親の頭や、その隣の信徒の喉に穴が開いている以外は。加えて、音も聞こえず、気配すらなく、さらにもう一人が今度は胸と頭に同時に穴が開く。

「うわっ!」

「ひいっ!?」

ここにきてようやく異変を察し、他の信徒達はその場を逃れようとした。

だが、誰一人、出入り口の扉にさえ辿り着けなかった。ある者は背を向けようとして背中から。ある者は腰を抜かした状態で頭から背中にかけて。一人は扉のノブに手を伸ばしたものの届かず、後頭部から眉間を貫かれて息絶えたのだった。

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