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ギャナンの章
心の中で
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こうして、その時点で教会にいたすべての人間が消え失せた。人間達の命を次々と奪っていった<何か>は神父と同じように信徒達も取り込み、それを終えると今度は前任の神父の私室に侵入。床に空いた穴に覆い被さり、床下にわずかに残った<少女だったものが変じた粉>も吸収すると、満足したかのように林へと帰って行った。
翌日、別の信徒が訪れたが、教会は完全に無人だった。神父も、他の信徒の姿もない。毎日欠かさず訪れて雑事をこなしていた信徒も、そこに保護されていたはずの母子もいない。
神父の私室にさえ、扉は開いたままなのに誰もいないのだ。それでいて、礼拝室にはいくつかの血痕が残されていた。
「こ……これは……!」
先日の<事件>のことを知っていた信徒は、尋常ならざることがあったに違いないと察し、役人にそれを告げるために街へと向かった。
こうして先日も捜索に来た兵士達が訪れたが、結局、何一つ判明することなく捜索は打ち切られた。全員がいなくなっているので、アラベルとギャナンの姿がないことも不審には思われず、一緒に失踪したものと思われた。
この事件をきっかけにその教会は周囲の人間達から恐れられて誰も近付かなくなり、街の教会も触れることを避け、朽ち果てていくのを待つばかりとなったのである。
また、役人達が回収していった例の<砂のような塩のような粉>についても結局は何も判明せず、ただ厳重に保管されるだけとなったそうだ。
一方、奇跡的なひらめきで危機を回避したアラベルとギャナンは、別の街で、左官業を営む男の家に転がり込んでいた。
教会から持ち去った食器を古道具屋に売った金で食事をしていたところに声を掛けられ、意気投合。男が独り身だったこともあり、そのまま一緒に暮らすことになったのだ。
もっとも、男が必要としていたのはアラベルだけで、ギャナンの存在は邪魔でしかなかったが。
そのためか、男は、左官の腕はよく稼ぎも悪くはなかったのだが酒を飲むととにかく言動が乱雑になり、しかもギャナンに感情の矛先を向けた。
「なんだてめえは!? 辛気臭い顔しやがって! 俺のおかげでメシを食えてるんだからもっと感謝しろ! 俺を尊敬しろ!」
などと怒鳴りながらギャナンを殴り、蹴った。そしてアラベルは、男の矛先がギャナンに向いてる限りは何も口出しをしなかった。自分に被害が及ばなければそれでよく、しかも男と一緒にギャナンを痛めつけもした。
その時、ギャナンはと言えば、やはり死んだ魚のような目をしながらも反抗さえせず、ただ、心の中で、
ノェ
ルゥオルイ
ンフルゥィフエヌ
ロア
ロア
ムヌゥフイェヘ
と、唱え続けていただけだった。少女が口にしていた<歌>であった。
翌日、別の信徒が訪れたが、教会は完全に無人だった。神父も、他の信徒の姿もない。毎日欠かさず訪れて雑事をこなしていた信徒も、そこに保護されていたはずの母子もいない。
神父の私室にさえ、扉は開いたままなのに誰もいないのだ。それでいて、礼拝室にはいくつかの血痕が残されていた。
「こ……これは……!」
先日の<事件>のことを知っていた信徒は、尋常ならざることがあったに違いないと察し、役人にそれを告げるために街へと向かった。
こうして先日も捜索に来た兵士達が訪れたが、結局、何一つ判明することなく捜索は打ち切られた。全員がいなくなっているので、アラベルとギャナンの姿がないことも不審には思われず、一緒に失踪したものと思われた。
この事件をきっかけにその教会は周囲の人間達から恐れられて誰も近付かなくなり、街の教会も触れることを避け、朽ち果てていくのを待つばかりとなったのである。
また、役人達が回収していった例の<砂のような塩のような粉>についても結局は何も判明せず、ただ厳重に保管されるだけとなったそうだ。
一方、奇跡的なひらめきで危機を回避したアラベルとギャナンは、別の街で、左官業を営む男の家に転がり込んでいた。
教会から持ち去った食器を古道具屋に売った金で食事をしていたところに声を掛けられ、意気投合。男が独り身だったこともあり、そのまま一緒に暮らすことになったのだ。
もっとも、男が必要としていたのはアラベルだけで、ギャナンの存在は邪魔でしかなかったが。
そのためか、男は、左官の腕はよく稼ぎも悪くはなかったのだが酒を飲むととにかく言動が乱雑になり、しかもギャナンに感情の矛先を向けた。
「なんだてめえは!? 辛気臭い顔しやがって! 俺のおかげでメシを食えてるんだからもっと感謝しろ! 俺を尊敬しろ!」
などと怒鳴りながらギャナンを殴り、蹴った。そしてアラベルは、男の矛先がギャナンに向いてる限りは何も口出しをしなかった。自分に被害が及ばなければそれでよく、しかも男と一緒にギャナンを痛めつけもした。
その時、ギャナンはと言えば、やはり死んだ魚のような目をしながらも反抗さえせず、ただ、心の中で、
ノェ
ルゥオルイ
ンフルゥィフエヌ
ロア
ロア
ムヌゥフイェヘ
と、唱え続けていただけだった。少女が口にしていた<歌>であった。
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