悪魔を狩る者 ~ツェザリ・カレンバハの生涯~

京衛武百十

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ギャナンの章

ララ

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パン屋の男と靴屋の主人とは、それこそ隣人として良好な関係を築けていただろう。これは、アラベルとギャナンが転がり込む以前からのものである。

というのも、二人は元々友人同士だったのだ。しかも、共に女房を亡くして、余計にお互いを頼りにするようになったのだろう。

そう、靴屋は父子家庭だったのである。ゆえに、売れ残りとはいえパン屋からもらえるパンは、非常に助かっていた。

しかも、娘のララはそのパンが好きだった。

だから、彼女も、パン屋の男に対しては、なついているとまでは言わないにしても、怖がったりせずにすんでいた。

ただ、いつの間にかいた、『ギャナン』と呼ばれている男の子については、若干の苦手意識もないわけじゃなかった。

なかったのだが、それと同時に、気になる存在でもあったようだ。

「あの子、元気……?」

不意にララがそう尋ねてくる。それに対してパン屋の男は、

「ああ、ギャナンのことかい? 元気だよ。ちょっとすりむいたりしてただけだ」

と応えた。実は、あの<蝙蝠に似た何か>に捕らえられた時に爪によるものと思しき裂傷を負っていたのだが、それ自体はすでに傷口も塞がって快方に向かっている上に本人もそれほど気にしてる様子もないので、敢えて口にはしなかった。

その言葉に、ララはホッとしたような様子を見せた。

本質的に心根の優しい少女だというのが伝わってくる。



翌日、またアラベルに放り出されたギャナンを、ララが窓から見ていた。その表情には何とも言えない様々な感情がよぎっているようにも感じられる。

それと言うのも、ギャナンが<蝙蝠のような何か>に攫われたあの日、ララはギャナンがアラベルに裏口から路地に放り出されるのを見ていたのだ。ただ、大人のすることに口出しするのは憚られて何もできずにいたところに、突然、ギャナンの姿が消えてしまったのである。ほんの一瞬、目を逸らした隙に。

そのため、ララは、自分が見て見ぬふりをしていたせいでギャナンがいなくなってしまったのだと感じてしまっていたようだ。だから今度こそと思って、

「あ…あの、うちに、くる……?」

彼女は勇気を振り絞り、靴屋の裏口を開けてギャナンに声を掛けた。彼のことは本当は少し怖い。でも、先日のようなことがまたあったら嫌だ。その想いが、彼女に勇気を振り絞らせた。

「……」

ギャナンは、少し訝し気にララを見たが、小さく頷いて靴屋へと入っていった。

裏口のすぐ脇が、リビングになっている。ララは、掃除とか洗濯とかをやって、父親を助けていた。でも今日の分はもう終わって、寛いでいたところなのだった。

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