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ギャナンの章
今度こそ一緒に幸せに
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代書人だった夫を<悪魔憑き>として火炙りで亡くした妻は、元の家からは大きく離れた場所にある洋裁店で、住み込みの<お針子>として働き出した。
お針子としての仕事自体はブランクがあったことですぐには思うようにできなかったものの、その所為であれこれ嫌味を言われたり叱責されたりしたものの、一ヶ月もすればそれも慣れ、勘も取り戻し、それなりにこなせるようにもなった。
と同時に、皮肉な話ではあるものの妊娠も順調に推移していった。
働き出した当初は悪阻もひどく、そのせいで仕事がはかどらなかったのもあったのだが、それが落ち着くと少しだけ平穏も訪れたようだ。
自分に貸し与えられた部屋は、それこそベッドと小さな机がほとんどの空間を占めている、
<寝るだけの部屋>
ではあったものの、今の妻にはそれで十分だった。それ以外に何か手にできたとしても、持て余してしまうのは分かっていた。正気を保つだけで精一杯で、他に何か気遣う余裕などどこにもなかったのである。
今はまだ、服を着ていれば目立たないものの、少し、腹が出てきたような気はする。それを愛おし気に撫でて、妻は、
「今度こそ一緒に幸せになりましょう……」
柔らかく微笑んで口にした。
なのに、それからさらに一ヶ月後、
「へえ、君、新入りかい? 名前は……?」
休憩中に馴れ馴れしく話し掛けてきたいかにも気障ったらしい男がいた。男は、彼女と一緒に働くお針子の女性の夫だった。自分の仕事が休みだということで自身の女房を冷やかしに来たらしい。そこで、彼女に目を付けたのだ。
年齢の割には若く見え、それなりに愛嬌のある顔立ちをしている彼女に。すると、
「あんた! 何やってんの!?」
と、甲高い怒声。男の女房だった。しかもその女房は、自分の夫だけでなく、
「あんたも他人様の旦那に色目使ってんじゃないよ!!」
などと、彼女にまで怒りの矛先を向けてきたのだ。もちろん彼女は色目など使ってないし、むしろ絡まれて迷惑していただけで、とんだとばっちりである。
「……」
さすがに気には障ったもののここで感情を昂らせてもかえって面倒になるだけだと思い、彼女は喉にまで出かかった言葉を呑み込んだ。
『あんたこそ旦那をしっかり見張ってなさいよ!!』
という罵倒を。
しかし、この騒動の原因となった男は、彼女や自身の女房の気持ちなどどこ吹く風と言わんばかりに、彼女に目を付けてしまったようだ。
そして、何度も職場に顔を出しては、遂に彼女の部屋を突き止め、行動に出たのだった。
お針子としての仕事自体はブランクがあったことですぐには思うようにできなかったものの、その所為であれこれ嫌味を言われたり叱責されたりしたものの、一ヶ月もすればそれも慣れ、勘も取り戻し、それなりにこなせるようにもなった。
と同時に、皮肉な話ではあるものの妊娠も順調に推移していった。
働き出した当初は悪阻もひどく、そのせいで仕事がはかどらなかったのもあったのだが、それが落ち着くと少しだけ平穏も訪れたようだ。
自分に貸し与えられた部屋は、それこそベッドと小さな机がほとんどの空間を占めている、
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ではあったものの、今の妻にはそれで十分だった。それ以外に何か手にできたとしても、持て余してしまうのは分かっていた。正気を保つだけで精一杯で、他に何か気遣う余裕などどこにもなかったのである。
今はまだ、服を着ていれば目立たないものの、少し、腹が出てきたような気はする。それを愛おし気に撫でて、妻は、
「今度こそ一緒に幸せになりましょう……」
柔らかく微笑んで口にした。
なのに、それからさらに一ヶ月後、
「へえ、君、新入りかい? 名前は……?」
休憩中に馴れ馴れしく話し掛けてきたいかにも気障ったらしい男がいた。男は、彼女と一緒に働くお針子の女性の夫だった。自分の仕事が休みだということで自身の女房を冷やかしに来たらしい。そこで、彼女に目を付けたのだ。
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「あんた! 何やってんの!?」
と、甲高い怒声。男の女房だった。しかもその女房は、自分の夫だけでなく、
「あんたも他人様の旦那に色目使ってんじゃないよ!!」
などと、彼女にまで怒りの矛先を向けてきたのだ。もちろん彼女は色目など使ってないし、むしろ絡まれて迷惑していただけで、とんだとばっちりである。
「……」
さすがに気には障ったもののここで感情を昂らせてもかえって面倒になるだけだと思い、彼女は喉にまで出かかった言葉を呑み込んだ。
『あんたこそ旦那をしっかり見張ってなさいよ!!』
という罵倒を。
しかし、この騒動の原因となった男は、彼女や自身の女房の気持ちなどどこ吹く風と言わんばかりに、彼女に目を付けてしまったようだ。
そして、何度も職場に顔を出しては、遂に彼女の部屋を突き止め、行動に出たのだった。
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