悪魔を狩る者 ~ツェザリ・カレンバハの生涯~

京衛武百十

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ギャナンの章

俺は優しいからよ

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「ふう……」

妻は、仕事を終え食事を終え、自室に戻って一息吐いていた。だがその時、部屋のドアが開けられ、

「!?」

ギョッと振り向くと、そこには、あの<馴れ馴れしい男>が立っていた。しかも男は、間髪入れずに彼女をベッドに押し倒し覆い被さって体をまさぐってきた。

「―――――っ!!」

彼女は、全身を虫が這いずるような途方もない嫌悪感に正気を失いそうになる。渾身の絶叫を上げようとするが、手で口を押えられていて声にならない。すると男は、そんな彼女に対して、

「なあ? あんた、未亡人なんだって? そりゃ寂しいだろう? 大丈夫、俺は優しいからよ。歳なんて気にしねえよ。あんたは十分に魅力的だ……」

などと、本人は<甘い囁き>のつもりなのだろうが、言われる側としては怖気しか湧かない戯言に全身が粟立つ。なのに男はお構いなしに彼女の口に布を押し込んで封じ、両手首をまとめて左手で掴んだ上に両足の上に馬乗りになってそちらも拘束。右手で服をはだけさせていった。

「―――――っ! ―――――っっ!!」

妻は必死に抵抗するが、ベッドを多少軋ませるだけでどうにもならない。その物音に気付いた隣室の同僚も、

「ったく、自分を慰めんのもいいけど、もうちょっとわきまえてよね」

と、彼女が自ら慰めて動きが激しくなったのだろうと解釈しただけだった。

『いやっ! いやっっ!! やめてぇーっっ!!』

そう叫ぼうとするが声にならない彼女に、男は、容赦なく自身の劣情を捻じ込んできた。

夫にしか許したことのない行為を無理矢理強いられて、妻の心は文字通り引き裂かれんばかりだった。

『どうして……? どうしてですか、神様……? どうして私がこんな目に遭わないといけないのですか……? こんなの……ひどすぎる……!!』

男の身勝手な注送から身を守るための防御反応としてぬめりが分泌されただけなのを、男は、

「へへへ、やっぱ女ってのはこれを期待してんだよな…! 口じゃなんだかんだ言っててもよ…!」

とか勝手なことを口にする。しかも、

「あんたの、いい具合だぜ! たまんねえ……!」

それこそ下衆な猥談で語られるような文言を男は垂れ流すが、もう、妻には届いていなかった。彼女はとめどもなく涙をこぼしながら心を閉ざし、ただこの悪夢が早く終わってくれることを願っていただけだったのだ。



こうして彼女の中にたっぷりと情欲をぶちまけた男は、

「また楽しみたかったら声を掛けてくれよ」

などと吐き気しかもよおさない戯言を彼女の耳元で囁いた後、そそくさと部屋を出ていったのだった。

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