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ツェザリ・カレンバハの章
運命という概念
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「おまえ、すごいな」
ツェザリは、ややぎこちない様子とはいえ、大人でもそれなりに重く感じるであろう荷物も、持ち上げてみせた。ケインやバーバラでは、二人で力を合わせてやっとのものだ、しかも、ケインやバーバラは、ここまでの経験で慣れたからこそ今ではそれができるようになっただけで、最初はそれこそ小物を持つのがやっとだったのだ。
なのに、ツェザリは、言われなくてもやってみせた。一方で、彼自身は、できるからしているだけでしかなく、感心されるのがむしろよく分からないというのもある。
「……」
『すごいな』と言われても、彼自身にも何がすごいのかよく分からない。ただ、やはり、これを見るだけでもすでに彼が尋常ではないことも分かるだろう。分かるが、普通の人間にはそれさえ、
<すごい子供>
という認識にしかならないだろうが。
ボリスですら、単に、
『それだけ厳しい境遇だったんだろうな……』
と思うだけだった。
こうして積んだ荷物を次の場所に運ぶために、馬車で移動する。そこは、教会だった。街に点在する教会が購入したものを届けるのが今回の仕事である。なので、小分けにされた荷物が多かったのだ。
それからも、ボリスとツェザリとケインとバーバラは、次々と教会に荷物を配達して回った。
しかも、教会間でやり取りしている書類などもついでに受け取っては次の教会に届けたりもする。実にしっかりと考えられた<運送業>だった。荷物を届けた先で別の荷物を受け取り、それをまた配送するという、現代の仕組みにも通じる効率の良さである。ボリスはそれを、独自に編み出していたのだ。
もっともそれは、彼の人脈もあってのことだが。
彼は、そのいかつい見た目のとは裏腹に実に人懐っこい性格で、誰ともすぐに親しくなってしまうのだ。
だからこそ、初めて会ったその日、一人で歩いているツェザリにも声を掛けたというのもある。普通は訝しんで関わろうとしないものだというのに。
<たられば>に意味などないが、もし、ツェザリが、彼を弄んだ神父よりも先にボリスに出逢っていれば、もしかするとまったく違った人生を歩むことになっていたかもしれない。この後の悲劇も回避されていたかもしれない。それを思えば、本当に悔やまれるだろう。
と同時に、だからこそ人間は、<運命>なる概念に囚われてしまうのだろう。運命という概念を当てはめることでしか理解できない事象があると感じてしまうのだ。
確かに、そう考えずにいられないのが、この世というものなのだろう。
ツェザリは、ややぎこちない様子とはいえ、大人でもそれなりに重く感じるであろう荷物も、持ち上げてみせた。ケインやバーバラでは、二人で力を合わせてやっとのものだ、しかも、ケインやバーバラは、ここまでの経験で慣れたからこそ今ではそれができるようになっただけで、最初はそれこそ小物を持つのがやっとだったのだ。
なのに、ツェザリは、言われなくてもやってみせた。一方で、彼自身は、できるからしているだけでしかなく、感心されるのがむしろよく分からないというのもある。
「……」
『すごいな』と言われても、彼自身にも何がすごいのかよく分からない。ただ、やはり、これを見るだけでもすでに彼が尋常ではないことも分かるだろう。分かるが、普通の人間にはそれさえ、
<すごい子供>
という認識にしかならないだろうが。
ボリスですら、単に、
『それだけ厳しい境遇だったんだろうな……』
と思うだけだった。
こうして積んだ荷物を次の場所に運ぶために、馬車で移動する。そこは、教会だった。街に点在する教会が購入したものを届けるのが今回の仕事である。なので、小分けにされた荷物が多かったのだ。
それからも、ボリスとツェザリとケインとバーバラは、次々と教会に荷物を配達して回った。
しかも、教会間でやり取りしている書類などもついでに受け取っては次の教会に届けたりもする。実にしっかりと考えられた<運送業>だった。荷物を届けた先で別の荷物を受け取り、それをまた配送するという、現代の仕組みにも通じる効率の良さである。ボリスはそれを、独自に編み出していたのだ。
もっともそれは、彼の人脈もあってのことだが。
彼は、そのいかつい見た目のとは裏腹に実に人懐っこい性格で、誰ともすぐに親しくなってしまうのだ。
だからこそ、初めて会ったその日、一人で歩いているツェザリにも声を掛けたというのもある。普通は訝しんで関わろうとしないものだというのに。
<たられば>に意味などないが、もし、ツェザリが、彼を弄んだ神父よりも先にボリスに出逢っていれば、もしかするとまったく違った人生を歩むことになっていたかもしれない。この後の悲劇も回避されていたかもしれない。それを思えば、本当に悔やまれるだろう。
と同時に、だからこそ人間は、<運命>なる概念に囚われてしまうのだろう。運命という概念を当てはめることでしか理解できない事象があると感じてしまうのだ。
確かに、そう考えずにいられないのが、この世というものなのだろう。
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