61 / 95
ツェザリ・カレンバハの章
定宿
しおりを挟む
教会への配達を終え、ボリスとツェザリとケインとバーバラは、ボリスが定宿としている宿に来ていた。
「おかえり」
宿の女主人が笑顔で出迎える。アラベルよりはわずかに年下だろうか?という印象のその女主人に、ボリスも笑顔で、
「ただいま」
と応えた。とは言っても、二人は夫婦ではないし、この宿はボリスの家でもない。単にそれくらい定宿にしているということである。
もっとも、ツェザリはそんなことなど気にしてもいなかったが。どうでもよかったのだ。それでも、ボリスは、
「この宿の女主人、イザベラだ。イザベラの旦那は俺の戦友でな。旦那が戦死してからも懇意にさせてもらってる」
と、訊かれてもいないのに紹介した。いちいち誤解されてからそれを解くのが面倒だからというのもあった。
なお、イザベラには、戦死した夫との間に二人の子供がいたが、夫の戦死と共に生活が困窮。やむを得ず、夫がかつて仕えていたことがある下級貴族が子供を欲していたこともあって、そこに養子に出していた。せめて子供達には、自分の下にいるよりはまだ恵まれた生活をと思ってのことだった。
その下級貴族も必ずしも裕福ではなかったものの、少なくとも食うや食わずの生活でもなく、子供達は、貴族の端くれとして成長しているそうだ。
ただし、イザベラは母親として振る舞うことは許されず、遠くから子供達の様子を眺めるだけだったが。
それは余談なのでさて置くとして、イザベラは、夕食として、バケットいっぱいのパンと、昼に食べたものよりは具の多い肉と野菜のスープを用意してくれた。
当時の庶民の食べるものとしては実に平均的なものだっただろう。副菜は少なく、基本的にひたすらパンを食べるというのが一般的だった。
貴族などの上流階級は、中が白いパンを食べ、庶民は中も茶色いパンを食べるのだ。もっとも、貧民はそれすら満足に食べられなかったが。
そういう意味では、ボリスはギリギリ中流と言えただろう。仕事が上手くいっており、収入もまずますだったからだ。イザベラも、ボリスが宿賃をはずんでくれるからこうして腹いっぱい食べられるだけの食事を用意することができるというのもある。
そんな夕食を終えると、
「ツェザリ、服を脱げ」
ボリスはそう告げた。
「……」
その言葉に、ツェザリの頭に何か嫌なものがよぎりかけたが、ボリスの表情からはその<嫌なもの>を膨らませるようなものは見て取れず、ツェザリは素直に服を脱いだ。
するとボリスは、イザベラに汲んでもらった湯に浸した布で、ツェザリの体を拭き始めたのだった。
「おかえり」
宿の女主人が笑顔で出迎える。アラベルよりはわずかに年下だろうか?という印象のその女主人に、ボリスも笑顔で、
「ただいま」
と応えた。とは言っても、二人は夫婦ではないし、この宿はボリスの家でもない。単にそれくらい定宿にしているということである。
もっとも、ツェザリはそんなことなど気にしてもいなかったが。どうでもよかったのだ。それでも、ボリスは、
「この宿の女主人、イザベラだ。イザベラの旦那は俺の戦友でな。旦那が戦死してからも懇意にさせてもらってる」
と、訊かれてもいないのに紹介した。いちいち誤解されてからそれを解くのが面倒だからというのもあった。
なお、イザベラには、戦死した夫との間に二人の子供がいたが、夫の戦死と共に生活が困窮。やむを得ず、夫がかつて仕えていたことがある下級貴族が子供を欲していたこともあって、そこに養子に出していた。せめて子供達には、自分の下にいるよりはまだ恵まれた生活をと思ってのことだった。
その下級貴族も必ずしも裕福ではなかったものの、少なくとも食うや食わずの生活でもなく、子供達は、貴族の端くれとして成長しているそうだ。
ただし、イザベラは母親として振る舞うことは許されず、遠くから子供達の様子を眺めるだけだったが。
それは余談なのでさて置くとして、イザベラは、夕食として、バケットいっぱいのパンと、昼に食べたものよりは具の多い肉と野菜のスープを用意してくれた。
当時の庶民の食べるものとしては実に平均的なものだっただろう。副菜は少なく、基本的にひたすらパンを食べるというのが一般的だった。
貴族などの上流階級は、中が白いパンを食べ、庶民は中も茶色いパンを食べるのだ。もっとも、貧民はそれすら満足に食べられなかったが。
そういう意味では、ボリスはギリギリ中流と言えただろう。仕事が上手くいっており、収入もまずますだったからだ。イザベラも、ボリスが宿賃をはずんでくれるからこうして腹いっぱい食べられるだけの食事を用意することができるというのもある。
そんな夕食を終えると、
「ツェザリ、服を脱げ」
ボリスはそう告げた。
「……」
その言葉に、ツェザリの頭に何か嫌なものがよぎりかけたが、ボリスの表情からはその<嫌なもの>を膨らませるようなものは見て取れず、ツェザリは素直に服を脱いだ。
するとボリスは、イザベラに汲んでもらった湯に浸した布で、ツェザリの体を拭き始めたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる