悪魔を狩る者 ~ツェザリ・カレンバハの生涯~

京衛武百十

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ツェザリ・カレンバハの章

定宿

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教会への配達を終え、ボリスとツェザリとケインとバーバラは、ボリスが定宿としている宿に来ていた。

「おかえり」

宿の女主人が笑顔で出迎える。アラベルよりはわずかに年下だろうか?という印象のその女主人に、ボリスも笑顔で、

「ただいま」

と応えた。とは言っても、二人は夫婦ではないし、この宿はボリスの家でもない。単にそれくらい定宿にしているということである。

もっとも、ツェザリはそんなことなど気にしてもいなかったが。どうでもよかったのだ。それでも、ボリスは、

「この宿の女主人、イザベラだ。イザベラの旦那は俺の戦友でな。旦那が戦死してからも懇意にさせてもらってる」

と、訊かれてもいないのに紹介した。いちいち誤解されてからそれを解くのが面倒だからというのもあった。

なお、イザベラには、戦死した夫との間に二人の子供がいたが、夫の戦死と共に生活が困窮。やむを得ず、夫がかつて仕えていたことがある下級貴族が子供を欲していたこともあって、そこに養子に出していた。せめて子供達には、自分の下にいるよりはまだ恵まれた生活をと思ってのことだった。

その下級貴族も必ずしも裕福ではなかったものの、少なくとも食うや食わずの生活でもなく、子供達は、貴族の端くれとして成長しているそうだ。

ただし、イザベラは母親として振る舞うことは許されず、遠くから子供達の様子を眺めるだけだったが。

それは余談なのでさて置くとして、イザベラは、夕食として、バケットいっぱいのパンと、昼に食べたものよりは具の多い肉と野菜のスープを用意してくれた。

当時の庶民の食べるものとしては実に平均的なものだっただろう。副菜は少なく、基本的にひたすらパンを食べるというのが一般的だった。

貴族などの上流階級は、中が白いパンを食べ、庶民は中も茶色いパンを食べるのだ。もっとも、貧民はそれすら満足に食べられなかったが。

そういう意味では、ボリスはギリギリ中流と言えただろう。仕事が上手くいっており、収入もまずますだったからだ。イザベラも、ボリスが宿賃をはずんでくれるからこうして腹いっぱい食べられるだけの食事を用意することができるというのもある。

そんな夕食を終えると、

「ツェザリ、服を脱げ」

ボリスはそう告げた。

「……」

その言葉に、ツェザリの頭に何か嫌なものがよぎりかけたが、ボリスの表情からはその<嫌なもの>を膨らませるようなものは見て取れず、ツェザリは素直に服を脱いだ。

するとボリスは、イザベラに汲んでもらった湯に浸した布で、ツェザリの体を拭き始めたのだった。

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