悪魔を狩る者 ~ツェザリ・カレンバハの生涯~

京衛武百十

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ツェザリ・カレンバハの章

厳しい人生を送ってきたんだな……

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「……お前も、厳しい人生を送ってきたんだな……」

ツェザリの体を拭きながら、ボリスはしみじみとそう呟いた。まだ八歳の子供に掛ける言葉としては違和感もあるかもしれないが、彼の視線の先にある無数の痣や傷痕が刻まれた体は、歴戦の兵士のそれと違わなかったのだから、ついそう口にしてしまったのも無理からぬことかもしれない。

「……」

それに対してツェザリは何も応えなかったものの、今では何となくボリスの言おうとしていることが分からなくもない気もしていた。ララという、穏やかに生きてきた、お菓子のような甘ったるい子供の存在を知ってしまったからだろうか。

もっとも、そのララさえ、得体の知れない圧倒的な<何か>の前に、それこそ地面に落ちた菓子が踏みにじられるように呆気なく潰れてしまったが。

そんなララの笑顔が頭をよぎるが、ツェザリの胸の片隅で僅かに何かがよぎる印象もあったもののそこまでだった。それ以上は何も感じない。痛みさえも。

ツェザリの本質そのものがまったく人間のそれとは違ってしまったということだろう。ただ、今は、何をする必要もないからしないだけだ。

ボリスの方も、普通の子供でないことは察していたが、ツェザリのように心が失われていまったかのように情動を見せない子供自体はこれまでも何人も接してきたので、特に不思議にも感じなかった。ケインとバーバラも、まさにそれだ。

家が火事になり、両親が炎にまかれて恐ろしい悲鳴を上げながら死んでいくのを目の当たりにした上に、自分達も命が助かったこと自体が奇跡のような火傷を負い、もう二度と<普通の生き方>はできなくなったのであれば、無理もないだろう。

とは言えボリスは、これまでにも、苛烈な経験をしながらでも、<普通の生活>とまではいかなくとも、理解のある者と出逢い、共に手を携えてそれなりに人間らしい生き方を取り戻した例もいくつも見てきていることから、見捨てることはできなかった。同じような境遇にいるすべての子供を救うことはできなくても、少なくとも自分が関わった子供については、幸せになってほしかった。

妻の腹の中にいたまま妻と共に死んだ我が子が掴めなかったものを、掴んでほしいと思うのだ。

これ自体が、妻と子を守れなかった彼の贖罪でもある。ボリス自身も、戦場で負った傷が原因で子を生せない体になったというのもある。

ボリスにとっては、こうして手を差し伸べた子供こそが、我が子のようなものだったのだ。

そしてそれが、ボリスの生き甲斐となっている。

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