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ツェザリ・カレンバハの章
心の支え
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ボリスがこうやって子供達を保護するのは、彼自身がもう子供を生せない体になっていたからというのもあるのだろう。彼を慕う女性も実はそれなりにいるのだが、子を生せない自分と一緒になっても周囲からそういう目で見られるのも分かっているから、気持ちを受け入れることはない。
原因は自分にあると夫の側が言っても、
『それは妻を庇っているだけで、本当は妻の方が子供ができない体なのに違いない』
などという見当違いな邪推をする者が少なくないことも彼は知っていた。そして、この時代、
<子を生めない女>
は、人間としての価値すらないと思われていた。ボリスはそれが許せなかったのだ。
左目は視力を失い、子を生せない体となった自分でもこうやって子供を育てることもできる。それを示したいという気持ちもあった。その一方で、
『子供の将来を想うならちゃんとした両親の下で』
という想いもあって、最終的には信頼できる人物に養子として迎えてもらう形にはなるものの、子供達の多くは、彼に感謝をして、『ボリスお父さん』と呼んだりもするのだという。中には彼のことを忘れてしまう子供もいるにせよ、それは一向に構わなかった。むしろ辛かった頃のことなど忘れてくれた方がいいとも思っていた。
しかも彼は、子供達が幸せに暮らせているかどうかを、仕事の傍ら確認して回ったりもしている。過去に一度、信頼していた人物が事業に失敗して負債を抱え、そのカタとして養子にした子供を差し出すということがあったりもしたのだ。その時には負債の一部を肩代わりすることで取り返し、結局、その子が自分で仕事をして暮らし始めるまで一緒に過ごした事例もあった。
そんなこともありつつも、おおむね、上手くはいっていただろう。
今も、ケインとバーバラはもうすでに、自分のことはかなり自分でできるようにもなってきている。ボリスが保護したばかりの頃は、自分で食事さえとれず、赤ん坊に離乳食を与えるようにしてボリスが食べさせたり、排泄も自分でできなくてオムツを穿かせ、ボリスが毎回きれいにしたりもしていたのだ。無論、体を拭くのもボリスの役目だった。
彼は、仕事をこなしながら数ヶ月にわたってそれをこなし、ケインとバーバラを文字通り『育て直した』のである。
そのケインとバーバラは、ボリスがツェザリの体を拭いている間に自分達で体を拭いて、先にベッドに入って眠っていた。これも、最初は彼が一緒でないと不安がって寝てくれなかったりもした。
確かに、傍から見てもすごく大変そうに思えるだろうが、彼にしてみればむしろそれが心の支えだったのだろう。
『何もない自分にもできることがある』
という意味で。
原因は自分にあると夫の側が言っても、
『それは妻を庇っているだけで、本当は妻の方が子供ができない体なのに違いない』
などという見当違いな邪推をする者が少なくないことも彼は知っていた。そして、この時代、
<子を生めない女>
は、人間としての価値すらないと思われていた。ボリスはそれが許せなかったのだ。
左目は視力を失い、子を生せない体となった自分でもこうやって子供を育てることもできる。それを示したいという気持ちもあった。その一方で、
『子供の将来を想うならちゃんとした両親の下で』
という想いもあって、最終的には信頼できる人物に養子として迎えてもらう形にはなるものの、子供達の多くは、彼に感謝をして、『ボリスお父さん』と呼んだりもするのだという。中には彼のことを忘れてしまう子供もいるにせよ、それは一向に構わなかった。むしろ辛かった頃のことなど忘れてくれた方がいいとも思っていた。
しかも彼は、子供達が幸せに暮らせているかどうかを、仕事の傍ら確認して回ったりもしている。過去に一度、信頼していた人物が事業に失敗して負債を抱え、そのカタとして養子にした子供を差し出すということがあったりもしたのだ。その時には負債の一部を肩代わりすることで取り返し、結局、その子が自分で仕事をして暮らし始めるまで一緒に過ごした事例もあった。
そんなこともありつつも、おおむね、上手くはいっていただろう。
今も、ケインとバーバラはもうすでに、自分のことはかなり自分でできるようにもなってきている。ボリスが保護したばかりの頃は、自分で食事さえとれず、赤ん坊に離乳食を与えるようにしてボリスが食べさせたり、排泄も自分でできなくてオムツを穿かせ、ボリスが毎回きれいにしたりもしていたのだ。無論、体を拭くのもボリスの役目だった。
彼は、仕事をこなしながら数ヶ月にわたってそれをこなし、ケインとバーバラを文字通り『育て直した』のである。
そのケインとバーバラは、ボリスがツェザリの体を拭いている間に自分達で体を拭いて、先にベッドに入って眠っていた。これも、最初は彼が一緒でないと不安がって寝てくれなかったりもした。
確かに、傍から見てもすごく大変そうに思えるだろうが、彼にしてみればむしろそれが心の支えだったのだろう。
『何もない自分にもできることがある』
という意味で。
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