悪魔を狩る者 ~ツェザリ・カレンバハの生涯~

京衛武百十

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ツェザリ・カレンバハの章

完璧を目指さない

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ボリスは、生きるために子供達が覚えた方がいいと考えるものについては教えるように心掛けていた。しかし、だからといって怒鳴って殴って強要する形では行わない。あくまで基礎的なそれを、<手伝い>という形でやってもらうだけで、<完璧>を目指さないのだ。取り敢えずの知識さえあれば、あとは必要になった時に自ら伸ばしていくだろうと考えてのことである。

だから、読み書きについても、自分の名前が書けて、読めて、さらにアルファベットのみ取り敢えず理解ができればいいと、仕事の合間のちょっとした時間に、片手間のような形で教えるだけだった。

が、不思議と皆、自分で文字が理解できるようになると次々と知りたがって、最終的には簡単な手紙くらいなら読めるようになった。そうならなかった子供の方が少なかった。けれど、手紙を読めるようにならなかった子供についても、ボリスは決して馬鹿にしなかった。読めるようになるのが特別であって、読めなくてもそれ自体は恥ずかしいことだとは口にしなかった。

実はケインとバーバラも、そういう形で読み書きがある程度できるようになっている。

そして、朝食を終えて宿を出て市場に向かい仕事が始まると、今日、積み込む荷物のリストを、ケインとバーバラがチェックした。二人とも、仕事で使う程度の読み書きはすでにできるようになっていたのだ。

これは、ツェザリのずっと先をいっている部分だった。

ツェザリは、ララと一緒に過ごしていた時に彼女から自分の名前<ギャナン>を書ける程度には文字を教わったりもしたが、ララ自身、まだまだ勉強中だったこともあり、文章を読み書きできるほどではなかった。

なので、今は、ケインとバーバラが『積んで』とジェスチャーで示した荷物を馬車に積み込むだけだった。ボリスは、そんな三人の様子を見ながら、自分の仕事をこなす。

ボリスの一番の役目は、代金の授受である。こればかりは子供に任せると相手が足下を見て代金を誤魔化してきたりすることもあるので、注意が必要なのである。

元々ボリスと親しい者はそんなことまではしないものの、新しく取引を始めた者の中には不届きな輩もいて、油断できないということだ。

実際、この時も、代金が合わず、

「額が合わないようだが?」

ボリスがそう口にすると、

「え? そんなわきゃねえだろ。お前の数え間違いだよ」

とか言ってくる者がいたので、

「そうか…? なら、額が合うまでこの場で何度でも数えてやろう」

ボリスが険しい表情で告げると、

「あ…ああ、もしかしたら俺が間違ってたかな~」

と、不足分を渋々出してきたのだった。

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