66 / 95
ツェザリ・カレンバハの章
完璧を目指さない
しおりを挟む
ボリスは、生きるために子供達が覚えた方がいいと考えるものについては教えるように心掛けていた。しかし、だからといって怒鳴って殴って強要する形では行わない。あくまで基礎的なそれを、<手伝い>という形でやってもらうだけで、<完璧>を目指さないのだ。取り敢えずの知識さえあれば、あとは必要になった時に自ら伸ばしていくだろうと考えてのことである。
だから、読み書きについても、自分の名前が書けて、読めて、さらにアルファベットのみ取り敢えず理解ができればいいと、仕事の合間のちょっとした時間に、片手間のような形で教えるだけだった。
が、不思議と皆、自分で文字が理解できるようになると次々と知りたがって、最終的には簡単な手紙くらいなら読めるようになった。そうならなかった子供の方が少なかった。けれど、手紙を読めるようにならなかった子供についても、ボリスは決して馬鹿にしなかった。読めるようになるのが特別であって、読めなくてもそれ自体は恥ずかしいことだとは口にしなかった。
実はケインとバーバラも、そういう形で読み書きがある程度できるようになっている。
そして、朝食を終えて宿を出て市場に向かい仕事が始まると、今日、積み込む荷物のリストを、ケインとバーバラがチェックした。二人とも、仕事で使う程度の読み書きはすでにできるようになっていたのだ。
これは、ツェザリのずっと先をいっている部分だった。
ツェザリは、ララと一緒に過ごしていた時に彼女から自分の名前<ギャナン>を書ける程度には文字を教わったりもしたが、ララ自身、まだまだ勉強中だったこともあり、文章を読み書きできるほどではなかった。
なので、今は、ケインとバーバラが『積んで』とジェスチャーで示した荷物を馬車に積み込むだけだった。ボリスは、そんな三人の様子を見ながら、自分の仕事をこなす。
ボリスの一番の役目は、代金の授受である。こればかりは子供に任せると相手が足下を見て代金を誤魔化してきたりすることもあるので、注意が必要なのである。
元々ボリスと親しい者はそんなことまではしないものの、新しく取引を始めた者の中には不届きな輩もいて、油断できないということだ。
実際、この時も、代金が合わず、
「額が合わないようだが?」
ボリスがそう口にすると、
「え? そんなわきゃねえだろ。お前の数え間違いだよ」
とか言ってくる者がいたので、
「そうか…? なら、額が合うまでこの場で何度でも数えてやろう」
ボリスが険しい表情で告げると、
「あ…ああ、もしかしたら俺が間違ってたかな~」
と、不足分を渋々出してきたのだった。
だから、読み書きについても、自分の名前が書けて、読めて、さらにアルファベットのみ取り敢えず理解ができればいいと、仕事の合間のちょっとした時間に、片手間のような形で教えるだけだった。
が、不思議と皆、自分で文字が理解できるようになると次々と知りたがって、最終的には簡単な手紙くらいなら読めるようになった。そうならなかった子供の方が少なかった。けれど、手紙を読めるようにならなかった子供についても、ボリスは決して馬鹿にしなかった。読めるようになるのが特別であって、読めなくてもそれ自体は恥ずかしいことだとは口にしなかった。
実はケインとバーバラも、そういう形で読み書きがある程度できるようになっている。
そして、朝食を終えて宿を出て市場に向かい仕事が始まると、今日、積み込む荷物のリストを、ケインとバーバラがチェックした。二人とも、仕事で使う程度の読み書きはすでにできるようになっていたのだ。
これは、ツェザリのずっと先をいっている部分だった。
ツェザリは、ララと一緒に過ごしていた時に彼女から自分の名前<ギャナン>を書ける程度には文字を教わったりもしたが、ララ自身、まだまだ勉強中だったこともあり、文章を読み書きできるほどではなかった。
なので、今は、ケインとバーバラが『積んで』とジェスチャーで示した荷物を馬車に積み込むだけだった。ボリスは、そんな三人の様子を見ながら、自分の仕事をこなす。
ボリスの一番の役目は、代金の授受である。こればかりは子供に任せると相手が足下を見て代金を誤魔化してきたりすることもあるので、注意が必要なのである。
元々ボリスと親しい者はそんなことまではしないものの、新しく取引を始めた者の中には不届きな輩もいて、油断できないということだ。
実際、この時も、代金が合わず、
「額が合わないようだが?」
ボリスがそう口にすると、
「え? そんなわきゃねえだろ。お前の数え間違いだよ」
とか言ってくる者がいたので、
「そうか…? なら、額が合うまでこの場で何度でも数えてやろう」
ボリスが険しい表情で告げると、
「あ…ああ、もしかしたら俺が間違ってたかな~」
と、不足分を渋々出してきたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる