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ツェザリ・カレンバハの章
あまりにも異様すぎる光景
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<ケインだったもの>は、すでに眼球も失われて目だった部分はただの穴になっているにも拘わらず、まるで見えているように、ドアへと向かった。さらに、<バーバラだったもの>も、床を次々と溶け落ちさせながらケインの後を追うように移動していく。
すると、<ケインだったもの>がドアノブを掴んで動かそうとしたらそれも溶け落ち、仕方なくドアに触れると、ドア自体も瞬く間に変色し溶け崩れて開いてしまった。
それは、宿の裏手に出るためのドアだった。そして<ケインだったもの>は外へと歩み出る。
だがその時、宿の方に出るドアが開いて、
「どうした!?」
と声が掛けられた。宿の常連客で、イザベラと顔馴染みになっている者達だった。明らかに尋常でない絶叫を聞きつけて、駆け付けたのだ。とは言え、いきなりドアを開けるのもどうかと先に来た者達が戸惑っているところで一人が焦れて開けたのである。
だがそこには、イザベラの姿はなく、赤黒いゲル状の不気味な物体が床に広がっているだけだった。一部は、イザベラが着ていた服がそのまま残っていたが、イザベラの体自体はすでに完全に溶けてしまったようだ。
「なんだ……こりゃ……?」
男達も、あまりにも異様すぎる光景に、全く理解ができなかった。それでも、ようやく床に這い上がり裏口から出ていこうとする<何か>に気付き、さらに唖然とする。
はっきりと目に見えているのに、それが何であるのかが頭に入ってこないのだ。腐って溶け始めている肉そのもののようにも見えるのに、生きているかのように動いているのだから。
だが、一人がついに、
「こいつ!」
と声を挙げながら壁に立てかけられてあったホウキを掴み、無謀にも殴りかかろうとした。
が、そのために足を踏み出し、赤黒いゲル状のものに触れた瞬間、
「ぎゃあっ!!」
男は声を上げ、ゲル状の物体の上に倒れた。すると、
「ぎゃああああーっっ!!」
さらに恐ろしい声で絶叫し、体を起こそうと手を着くが、
「ぎいいいいーっっ!」
またも絶叫して手を跳ね上げた。それにより、赤黒いゲル状のものが雫のように飛び散り、ドアのところにいた他の男の顔にかかる。
と、その男も、
「ぎゃあーっっ!!」
恐ろしい悲鳴を上げる。見ると、雫がかかった部分の肉が溶けて、顎の骨が見えていた。
「う、うわあーっ!」
「な、なんだよこれえーっ!!」
かろうじて無事だった男達は得体のしれない状況に恐れをなし、一目散に逃げていく。
一方、<バーバラだったもの>も裏口から外に出て、先を行く<ケインだったもの>を追うように歩いた。しかし、すでに足だった部分も溶けていて、みるみる短くなって、仕方なく手だった部分を地面に着いて、這うように進んだのだった。
すると、<ケインだったもの>がドアノブを掴んで動かそうとしたらそれも溶け落ち、仕方なくドアに触れると、ドア自体も瞬く間に変色し溶け崩れて開いてしまった。
それは、宿の裏手に出るためのドアだった。そして<ケインだったもの>は外へと歩み出る。
だがその時、宿の方に出るドアが開いて、
「どうした!?」
と声が掛けられた。宿の常連客で、イザベラと顔馴染みになっている者達だった。明らかに尋常でない絶叫を聞きつけて、駆け付けたのだ。とは言え、いきなりドアを開けるのもどうかと先に来た者達が戸惑っているところで一人が焦れて開けたのである。
だがそこには、イザベラの姿はなく、赤黒いゲル状の不気味な物体が床に広がっているだけだった。一部は、イザベラが着ていた服がそのまま残っていたが、イザベラの体自体はすでに完全に溶けてしまったようだ。
「なんだ……こりゃ……?」
男達も、あまりにも異様すぎる光景に、全く理解ができなかった。それでも、ようやく床に這い上がり裏口から出ていこうとする<何か>に気付き、さらに唖然とする。
はっきりと目に見えているのに、それが何であるのかが頭に入ってこないのだ。腐って溶け始めている肉そのもののようにも見えるのに、生きているかのように動いているのだから。
だが、一人がついに、
「こいつ!」
と声を挙げながら壁に立てかけられてあったホウキを掴み、無謀にも殴りかかろうとした。
が、そのために足を踏み出し、赤黒いゲル状のものに触れた瞬間、
「ぎゃあっ!!」
男は声を上げ、ゲル状の物体の上に倒れた。すると、
「ぎゃああああーっっ!!」
さらに恐ろしい声で絶叫し、体を起こそうと手を着くが、
「ぎいいいいーっっ!」
またも絶叫して手を跳ね上げた。それにより、赤黒いゲル状のものが雫のように飛び散り、ドアのところにいた他の男の顔にかかる。
と、その男も、
「ぎゃあーっっ!!」
恐ろしい悲鳴を上げる。見ると、雫がかかった部分の肉が溶けて、顎の骨が見えていた。
「う、うわあーっ!」
「な、なんだよこれえーっ!!」
かろうじて無事だった男達は得体のしれない状況に恐れをなし、一目散に逃げていく。
一方、<バーバラだったもの>も裏口から外に出て、先を行く<ケインだったもの>を追うように歩いた。しかし、すでに足だった部分も溶けていて、みるみる短くなって、仕方なく手だった部分を地面に着いて、這うように進んだのだった。
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