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ツェザリ・カレンバハの章
バーバラだったもの
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「オ……ボエ……ア……」
<バーバラだったもの>と思しきそれは、何か言葉を発しようとしたようだが、言葉にはならなかった。<口>らしき部分はもはやただの<穴>だった。かろうじて<歯>のような白いものがいくつか見えるだけの。
そして、その上には、<鼻>であっただろう穴と、<目>があったのだと思われる二つの虚ろな穴。<眼球>はない。よく見ると、<バーバラだったもの>が歩いてきたところの途中に、眼球らしきものが転がっていた。もっともそれももはや形が崩れていて、球状じゃなかったが。
そんな<バーバラだったもの>は、縋りつくようにイザベラに背後から抱きついた。瞬間、
「ぎゃああああああぁぁぁああぁーっっ!!」
もはや人間のそれとは思えない絶叫が、イザベラの喉からほとばしる。と同時に、バーバラだったものが触れた部分がすさまじい勢いで変色し、溶けていく。服も、皮膚も、皮膚が溶けて露出した骨すらも、熱せられたチーズのように溶けていくのだ。その痛みが、絶叫という形でイザベラの喉を突いて出たのだろう。
しかし、そこまでだった。
「……」
すぐにイザベラは声さえ出せなくなり、恐ろしい形相で見開かれた眼はぐるんと裏返り、ぐしゃり、と、体が床に崩れ落ちる。
『倒れる』ではない。文字通り、『溶けて崩れ落ちた』のだ。
それにより支えを失ったバーバラだったものも、床へと崩れ落ちる。
「ゴ……ボ……ォオ……」
何か言葉を発しようとしているらしいがやはり意味のあるそれにはならず、バーバラだったものは、イザベラの体が溶けて床に広がったものと混ざりながら、もがくように蠢いた。と、ケインの左手が落ちた場所と同じように床も溶け、イザベラの体だったゲル状の赤黒い物体と共に床下へと落ちる。
その様子を見ていたケインも、もはや人間の姿をしていなかった。
顔の皮膚が溶けて流れて、目玉が立て続けに床に落ち、歯茎と共に歯も次々と床に落ちていく。
「ヴ……ヴア……アア……」
なのに、ケインは生きていた。いや、これを『生きている』と称していいのかどうかは分からないが、とにかく『動いて』はいた。
すると、床に空いた穴から、バーバラだったものが再び姿を現す。それは、床の上に這い上がろうとしてか、腕らしい部分をかけるものの、触れた部分がすぐに溶け落ちて、這い上がれない。しかし、諦めることなくさらに先へと腕?を伸ばし、掴もうとした部分はやはり溶け落ち、その状態で前へと進んでいく。
そして、<ケインだったもの>の方は、足の部分はまだ人間の形が残っていて、それでよろよろと歩き出したのだった。
<バーバラだったもの>と思しきそれは、何か言葉を発しようとしたようだが、言葉にはならなかった。<口>らしき部分はもはやただの<穴>だった。かろうじて<歯>のような白いものがいくつか見えるだけの。
そして、その上には、<鼻>であっただろう穴と、<目>があったのだと思われる二つの虚ろな穴。<眼球>はない。よく見ると、<バーバラだったもの>が歩いてきたところの途中に、眼球らしきものが転がっていた。もっともそれももはや形が崩れていて、球状じゃなかったが。
そんな<バーバラだったもの>は、縋りつくようにイザベラに背後から抱きついた。瞬間、
「ぎゃああああああぁぁぁああぁーっっ!!」
もはや人間のそれとは思えない絶叫が、イザベラの喉からほとばしる。と同時に、バーバラだったものが触れた部分がすさまじい勢いで変色し、溶けていく。服も、皮膚も、皮膚が溶けて露出した骨すらも、熱せられたチーズのように溶けていくのだ。その痛みが、絶叫という形でイザベラの喉を突いて出たのだろう。
しかし、そこまでだった。
「……」
すぐにイザベラは声さえ出せなくなり、恐ろしい形相で見開かれた眼はぐるんと裏返り、ぐしゃり、と、体が床に崩れ落ちる。
『倒れる』ではない。文字通り、『溶けて崩れ落ちた』のだ。
それにより支えを失ったバーバラだったものも、床へと崩れ落ちる。
「ゴ……ボ……ォオ……」
何か言葉を発しようとしているらしいがやはり意味のあるそれにはならず、バーバラだったものは、イザベラの体が溶けて床に広がったものと混ざりながら、もがくように蠢いた。と、ケインの左手が落ちた場所と同じように床も溶け、イザベラの体だったゲル状の赤黒い物体と共に床下へと落ちる。
その様子を見ていたケインも、もはや人間の姿をしていなかった。
顔の皮膚が溶けて流れて、目玉が立て続けに床に落ち、歯茎と共に歯も次々と床に落ちていく。
「ヴ……ヴア……アア……」
なのに、ケインは生きていた。いや、これを『生きている』と称していいのかどうかは分からないが、とにかく『動いて』はいた。
すると、床に空いた穴から、バーバラだったものが再び姿を現す。それは、床の上に這い上がろうとしてか、腕らしい部分をかけるものの、触れた部分がすぐに溶け落ちて、這い上がれない。しかし、諦めることなくさらに先へと腕?を伸ばし、掴もうとした部分はやはり溶け落ち、その状態で前へと進んでいく。
そして、<ケインだったもの>の方は、足の部分はまだ人間の形が残っていて、それでよろよろと歩き出したのだった。
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