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ツェザリ・カレンバハの章
どこまでも底意地が悪い神
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だが、この世界を司る<神>とやらは、どこまでも底意地が悪いらしい。
ボリスとツェザリが仕事のために去った後、まず、ケインに異変が生じた。
「……?」
彼の左手の小指の先が、赤黒く変色していたのだ。しかも、痺れたように感覚がない。
「……」
とは言え、痛いわけではないので、どこかでぶつけたか何かして痣になったのだろうかとケインは考えた。
けれど、その兆候が表れてからは、恐ろしいほど早い変化だった。ケインがイザベラの手伝いをしている間に左手の小指全体に変色が広がったと思うと、
ガシャン!
とケインが手にしていた食器を落とした。
「大丈夫、ケイン?」
割れた食器より、イザベラはケインを案じた。それだけイザベラは本気で二人を愛していたのだ。なのに、その彼女の目に映ったのは、
「ケインッ!?」
彼の名を呼んだイザベラの声は、ほとんど悲鳴だった。なぜなら、ケインの左腕の形がおかしかったのだ。
肘から先が……ない。ケインの肘から先は、食器と共に床に転がっていたのである。もっとも、その時点ですでに、一見しただけでは人間の手とは思えないものに変化していたが。
赤黒く、ドロドロとした、異様な<何か>に。
しかもその<何か>が触れている床も、みるみる何とも言えない色に変色していき、さらには、ゴゾリ、と崩れて穴が開いた。<ケインの左手だったもの>も、その穴から下に落ちる。
「ケイン! 大丈夫! ケインっ!?」
呆然と自分の左腕を見るケインの体に触れた瞬間、
「ああっっ!!」
イザベラが悲鳴を上げる。彼女の手から脳へとすさまじい痛みが奔り抜けた。まるで、真っ赤に焼けた鉄にでも触れたかのような痛みだった。
思わず引き寄せた彼女の両手もすでに異様な形になっていた。赤黒く変色した上に、白いものが覗いているのだ。骨だった。肉が失われて、指の骨が見えているのである。
「ああ……はあぁあ……っ!?」
あまりのことに、イザベラは言葉を発することもできなくなっていた。そんな彼女に、背後から近付く気配。
けれど彼女は、自身の両手から体を貫く痛みと、恐ろしい光景に頭がいっぱいになって、気付かない。気付いたのは、ケインだ。そのケインの瞳は明らかな恐怖で歪んでいた。
そのケインの瞳が捉えた<もの>。
それは、おそらく、<バーバラだったもの>。
異変そのものはケインより後に生じたが、進行はずっと早かったようだ。
かろうじて顔?の一部から頭にかけて、バーバラの<痣>が見えるが、それ以外はもう、人間の姿をしていなかった。
何日も放置して腐り果て、もはや液体になり始めている肉以外の何物でもないものが、そこに立っていたのだった。
ボリスとツェザリが仕事のために去った後、まず、ケインに異変が生じた。
「……?」
彼の左手の小指の先が、赤黒く変色していたのだ。しかも、痺れたように感覚がない。
「……」
とは言え、痛いわけではないので、どこかでぶつけたか何かして痣になったのだろうかとケインは考えた。
けれど、その兆候が表れてからは、恐ろしいほど早い変化だった。ケインがイザベラの手伝いをしている間に左手の小指全体に変色が広がったと思うと、
ガシャン!
とケインが手にしていた食器を落とした。
「大丈夫、ケイン?」
割れた食器より、イザベラはケインを案じた。それだけイザベラは本気で二人を愛していたのだ。なのに、その彼女の目に映ったのは、
「ケインッ!?」
彼の名を呼んだイザベラの声は、ほとんど悲鳴だった。なぜなら、ケインの左腕の形がおかしかったのだ。
肘から先が……ない。ケインの肘から先は、食器と共に床に転がっていたのである。もっとも、その時点ですでに、一見しただけでは人間の手とは思えないものに変化していたが。
赤黒く、ドロドロとした、異様な<何か>に。
しかもその<何か>が触れている床も、みるみる何とも言えない色に変色していき、さらには、ゴゾリ、と崩れて穴が開いた。<ケインの左手だったもの>も、その穴から下に落ちる。
「ケイン! 大丈夫! ケインっ!?」
呆然と自分の左腕を見るケインの体に触れた瞬間、
「ああっっ!!」
イザベラが悲鳴を上げる。彼女の手から脳へとすさまじい痛みが奔り抜けた。まるで、真っ赤に焼けた鉄にでも触れたかのような痛みだった。
思わず引き寄せた彼女の両手もすでに異様な形になっていた。赤黒く変色した上に、白いものが覗いているのだ。骨だった。肉が失われて、指の骨が見えているのである。
「ああ……はあぁあ……っ!?」
あまりのことに、イザベラは言葉を発することもできなくなっていた。そんな彼女に、背後から近付く気配。
けれど彼女は、自身の両手から体を貫く痛みと、恐ろしい光景に頭がいっぱいになって、気付かない。気付いたのは、ケインだ。そのケインの瞳は明らかな恐怖で歪んでいた。
そのケインの瞳が捉えた<もの>。
それは、おそらく、<バーバラだったもの>。
異変そのものはケインより後に生じたが、進行はずっと早かったようだ。
かろうじて顔?の一部から頭にかけて、バーバラの<痣>が見えるが、それ以外はもう、人間の姿をしていなかった。
何日も放置して腐り果て、もはや液体になり始めている肉以外の何物でもないものが、そこに立っていたのだった。
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