悪魔を狩る者 ~ツェザリ・カレンバハの生涯~

京衛武百十

文字の大きさ
71 / 95
ツェザリ・カレンバハの章

どこまでも底意地が悪い神

しおりを挟む
だが、この世界を司る<神>とやらは、どこまでも底意地が悪いらしい。

ボリスとツェザリが仕事のために去った後、まず、ケインに異変が生じた。

「……?」

彼の左手の小指の先が、赤黒く変色していたのだ。しかも、痺れたように感覚がない。

「……」

とは言え、痛いわけではないので、どこかでぶつけたか何かして痣になったのだろうかとケインは考えた。

けれど、その兆候が表れてからは、恐ろしいほど早い変化だった。ケインがイザベラの手伝いをしている間に左手の小指全体に変色が広がったと思うと、

ガシャン!

とケインが手にしていた食器を落とした。

「大丈夫、ケイン?」

割れた食器より、イザベラはケインを案じた。それだけイザベラは本気で二人を愛していたのだ。なのに、その彼女の目に映ったのは、

「ケインッ!?」

彼の名を呼んだイザベラの声は、ほとんど悲鳴だった。なぜなら、ケインの左腕の形がおかしかったのだ。

肘から先が……ない。ケインの肘から先は、食器と共に床に転がっていたのである。もっとも、その時点ですでに、一見しただけでは人間の手とは思えないものに変化していたが。

赤黒く、ドロドロとした、異様な<何か>に。

しかもその<何か>が触れている床も、みるみる何とも言えない色に変色していき、さらには、ゴゾリ、と崩れて穴が開いた。<ケインの左手だったもの>も、その穴から下に落ちる。

「ケイン! 大丈夫! ケインっ!?」

呆然と自分の左腕を見るケインの体に触れた瞬間、

「ああっっ!!」

イザベラが悲鳴を上げる。彼女の手から脳へとすさまじい痛みが奔り抜けた。まるで、真っ赤に焼けた鉄にでも触れたかのような痛みだった。

思わず引き寄せた彼女の両手もすでに異様な形になっていた。赤黒く変色した上に、白いものが覗いているのだ。骨だった。肉が失われて、指の骨が見えているのである。

「ああ……はあぁあ……っ!?」

あまりのことに、イザベラは言葉を発することもできなくなっていた。そんな彼女に、背後から近付く気配。

けれど彼女は、自身の両手から体を貫く痛みと、恐ろしい光景に頭がいっぱいになって、気付かない。気付いたのは、ケインだ。そのケインの瞳は明らかな恐怖で歪んでいた。

そのケインの瞳が捉えた<もの>。

それは、おそらく、<バーバラだったもの>。

異変そのものはケインより後に生じたが、進行はずっと早かったようだ。

かろうじて顔?の一部から頭にかけて、バーバラの<痣>が見えるが、それ以外はもう、人間の姿をしていなかった。

何日も放置して腐り果て、もはや液体になり始めている肉以外の何物でもないものが、そこに立っていたのだった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...