悪魔を狩る者 ～ツェザリ・カレンバハの生涯～

ツェザリ・カレンバハの章

そっちの才能は

こうしてケインとバーバラは晴れてイザベラの養子となり、彼女と一緒に暮らすことになった。もちろん、火傷の痕が残りしゃべることもできなくなった二人が＜普通＞に生きるのは難しいだろう。しかし、延々と街と街の間を行き交うだけの根無し草のような生活よりは、母親しかいなくてもイザベラの子として一つところに落ち着いた暮らしの方がいいのかもしれない。

それに、イザベラにはボリスという強い味方が付いており、ボリスの友人知人らの助けも得られる。イザベラの宿はそれなりに繫盛もしている。ボリスから預かった子供ということなら、顔馴染みの者達は事情も察してくれる。

大きな問題はない。

「じゃあな。元気でやれよ。と言っても、まあこれまでと同じように週に一度は顔を出すことになるけどな」

そうだ。ボリスを父親としてみるなら、仕事で留守にしがちな父親がいるようなものなので、そういう意味でも必ずしも＜母と子だけの世帯＞という形にはならないだろう。

とは言え、また仕事に向かうボリスを見送るケインとバーバラの目には、涙が光っていた。なんだかんだと顔を合わせられるのは分かっていても、寂しさはあるということか。

もっとも、ツェザリに対してはそのような情は湧いていなかっただろうが。

無理もない。当のツェザリが二人に対して心を開いていないのだから。ララに対しては、無愛想ながら穏やかな表情もするようになっていたものの、ケインとバーバラにはそういう部分も見せてはこなかったのだ。

かと言って、特に衝突があったわけでもない。ただ愛想よくしてこなかっただけだ。そういう意味では険悪でもなかったと言えるだろうか。

いずれにせよこれで、ボリスとツェザリの二人きりの生活が始まることとなったわけだ。

仕事の面では、ボリスがまた荷物の上げ下ろしをするようになったので、ツェザリの負担が増えたわけでもない。ないが、半年の間にさらに力を付けた彼は、ボリスと比べてもそんなに差のない仕事をこなせるようになっていた。

これでいて、文字の読み書きについては習得が一向に進まず、

「お前にはそっちの才能はないのかもしれないな」

ボリスにそう言わせるほどだった。

しかしそれを補うかのように荷物の上げ下ろしはケインとバーバラを合わせた分以上にこなすので、あくまで向き不向きの問題なのだろう。

だからボリスも、気にしていなかった。ツェザリがいなければ、すべて一人でやっていたことなのだ。それを思えば大助かりである。

『ツェザリ……おまえにもいい親が見付かればいいな……』

淡々と仕事をこなすツェザリを見て、ボリスはそう思わずにはいられなかったのだった。