悪魔を狩る者 ~ツェザリ・カレンバハの生涯~

京衛武百十

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ツェザリ・カレンバハの章

何事もなかったかのように

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そんなこともありつつ次の街に到着し、ツェザリは、特に何事もなかったかのように荷物をボリスの指示通りに次々下ろしていった。

彼を恐れるケインとバーバラに対してボリスは、

「ごめんな。怖かったら俺の傍にいればいい。ただ、あいつもまだ来たばかりだからな。いろいろあるんだ」

『怖がるな』『仲良くやれ』とは言わなかった。そんなことを言われても無理なのは分かっていたからだ。綺麗事を並べるだけでは子供でさえ納得はしてくれない。具体的に<怖がらなくて済む対処>をしてもらわないと納得なんでできるはずがない。

だから、ケインとバーバラが自分の傍に来ることを許した。ツェザリとの間に自分が立つことを心掛けた。

こういうのも慣れている。よく知りもしない相手を警戒するのは当たり前のことだ。むしろツェザリのような雰囲気を放つ相手を警戒しない方がどうかしている。

そもそも、ボリス自身がツェザリの振る舞いを注意深く見ている。彼とはどう接すればいいのかを見極めるために。

普通に<訳アリの子供>が保護されるのであれば、ボリスは素晴らしい人物なのだ。



こうして、ツェザリとボリスとケインとバーバラは、まるで家族のように一緒に過ごした。いや、ボリスとしては実際に家族のつもりだっただろう。そのおかげもあってか、ケインとバーバラも、ツェザリを恐れなくなっていった。時々、<怖い顔>をするものの、それは自分達に向けられているわけじゃないことを悟ったからだろう。

<許せない相手>がいて、それに対してのものだというのが、一緒に暮らしていて分かってきた。

そしてツェザリが来てからも半年が過ぎ、もう何度目の訪問かも分からなくなった<イザベラの宿>で、

「ケイン、バーバラ、もし二人さえよければ、私の子供になる……?」

言葉を話せない二人でも、今では何を考えているのか、何を伝えようとしているのか、それが分かるようになったイザベラが、そう口に出した。

ケインとバーバラも、イザベラに確かに懐いていた。この宿に来ると、二人は、イザベラの部屋で寝るようになった。イザベラ自身、二人と一緒にいたいと思っていた。

確かに、<養子に出した実の子の代わり>という想いがないと言えば噓になる。けれど、これまでボリスが保護した子供達を迎え入れた者達も、事故や病気で子供を亡くしたり、子供ができない事情を抱えた者達ばかりだったから、イザベラが二人を迎え入れることが許されない理由がなかった。

ケインとバーバラが保護されて一年。週に一~二度、イザベラの宿に滞在し、一年かけてここまで関係を築き上げてきたのだ。

「……」

揃って問い掛けるようにボリスの顔を見るケインとバーバラに、ボリスは、

「二人が残りたいなら、そうすればいい。なに、俺も今まで通り、ここは定宿として使うことになるからよ。これからも顔を合わせることにはなるさ」

穏やかに微笑みながら告げたのだった。

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