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ツェザリ・カレンバハの章
普通の子供
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ボリスがこれまで保護してきた子供達にも、強い復讐心を抱いた者が何人もいた。それこそ、親を強盗に殺されたような者は、「いつしかその強盗を見付け出して徹底的に痛めつけた上で殺してやる」と心に誓っていた者もいた。
そしてボリスは、その<復讐心>をのものを否定することはなかった。いくら頭ごなしに否定して抑え付けようとしても無駄なのは、むしろ復讐心を強くすることがあるのは、知っていたからだった。
そもそも、ボリス自身、これまでにも戦で何人殺してきたか、自分でも覚えていない。
「マンマ…マンマ…助けて……」
と泣きながら口にする者や、
「俺は、こんなところで死ねないんだ……あいつのところに帰るんだ……!」
と、愛する者の名を口にしながら足掻く者に、容赦なくとどめを刺してもきた。そんな自分に『人を殺すのは良くない』と口にできる資格はないと思っていた。
ただ、同時に、人を殺した者が背負うことになるものについても、よく知っていた。
<愛>を知れば知るほど、人の<優しさ>に触れれば触れるほど、いたたまれない気分になることを知っていた。自分が許せなくなることを知っていた。復讐心に囚われていられるのは、不幸の中にいればこそだというのも。
だからこそ、幸せになってほしかった。何もわざわざ手を血で汚して<業>を背負ってほしくなかった。
ただの獣であれば何をどれだけ殺そうとも業を背負うことはないだろう。だが、人間はそうじゃない。そうじゃないことを知っていればこそ、自分と同じになってほしくはなかった。
すでに人を殺めたことがある子供も中にはいたが、それ以上の業を背負ってほしくもなかった。
そのために、幸せを感じられるように心掛けてきた。
それは何より、ボリス自身のためでもある。子供達が穏やかな表情になればなるほど、彼自身も癒されたのだ。
なお、これまで彼が保護した子供達の中に、養親に引き取られてから殺人に手を染めた者はこれまでのところいない。この後も出ないとは断言できないものの、少なくとも、今のところはいないのだ。両親を強盗に殺された者も、
「今の両親に迷惑をかけたくないから……」
と口にしているのだという。もっとも、
「だからって、強盗犯の奴らを目の前にしたら我慢できる自信もないけど……」
とも口にしているので、『将来にわたって』という意味では断言できないのも事実ではある。
それでも、『今の幸せを壊したくないから』ということで、自分を律しようとはしてくれている。
だからボリスは、ツェザリに対しても、これまでと同じように接した。
きっと、ツェザリが普通の子供だったら、大きく人生が変わってもいたのだろう。
<普通の子供>だったら……
そしてボリスは、その<復讐心>をのものを否定することはなかった。いくら頭ごなしに否定して抑え付けようとしても無駄なのは、むしろ復讐心を強くすることがあるのは、知っていたからだった。
そもそも、ボリス自身、これまでにも戦で何人殺してきたか、自分でも覚えていない。
「マンマ…マンマ…助けて……」
と泣きながら口にする者や、
「俺は、こんなところで死ねないんだ……あいつのところに帰るんだ……!」
と、愛する者の名を口にしながら足掻く者に、容赦なくとどめを刺してもきた。そんな自分に『人を殺すのは良くない』と口にできる資格はないと思っていた。
ただ、同時に、人を殺した者が背負うことになるものについても、よく知っていた。
<愛>を知れば知るほど、人の<優しさ>に触れれば触れるほど、いたたまれない気分になることを知っていた。自分が許せなくなることを知っていた。復讐心に囚われていられるのは、不幸の中にいればこそだというのも。
だからこそ、幸せになってほしかった。何もわざわざ手を血で汚して<業>を背負ってほしくなかった。
ただの獣であれば何をどれだけ殺そうとも業を背負うことはないだろう。だが、人間はそうじゃない。そうじゃないことを知っていればこそ、自分と同じになってほしくはなかった。
すでに人を殺めたことがある子供も中にはいたが、それ以上の業を背負ってほしくもなかった。
そのために、幸せを感じられるように心掛けてきた。
それは何より、ボリス自身のためでもある。子供達が穏やかな表情になればなるほど、彼自身も癒されたのだ。
なお、これまで彼が保護した子供達の中に、養親に引き取られてから殺人に手を染めた者はこれまでのところいない。この後も出ないとは断言できないものの、少なくとも、今のところはいないのだ。両親を強盗に殺された者も、
「今の両親に迷惑をかけたくないから……」
と口にしているのだという。もっとも、
「だからって、強盗犯の奴らを目の前にしたら我慢できる自信もないけど……」
とも口にしているので、『将来にわたって』という意味では断言できないのも事実ではある。
それでも、『今の幸せを壊したくないから』ということで、自分を律しようとはしてくれている。
だからボリスは、ツェザリに対しても、これまでと同じように接した。
きっと、ツェザリが普通の子供だったら、大きく人生が変わってもいたのだろう。
<普通の子供>だったら……
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