悪魔を狩る者 ~ツェザリ・カレンバハの生涯~

京衛武百十

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ツェザリ・カレンバハの章

過ち

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子供はなかなかできなかったが、ブリギッテは妻としてはよくやっていたと言えるだろう。炊事も洗濯も、子供の頃から母親を手伝っていたこともあり完璧だと言えた。夫に対しても献身的で、夜の勤めも決して拒むようなことはなく、むしろ夫を励まそうとして積極的に奉仕もした。

なのに、どれほど夫を受け入れても子供ができる気配がなかった。

ゆえにブリギッテは、

『神様…どうか私たちに子供をお授けください……』

近所の教会へも足しげく通い、そう祈りを捧げもした。

しかしこの頃には、夫は妻に隠れて酒場の給仕係の若い女との逢瀬を重ねていたりもしたのだが。

もっとも、周囲との人間関係も今よりずっと濃密だった当時では噂が広まるのも早く、

「ちょっと、ブリギッテ! あんたの旦那、酒場の若い給仕とできてるらしいわよ」

夫の不貞行為はすぐにブリギッテの耳にも届くようになっていた。それでも彼女は、

「……彼、モテるから。それに私、なかなか子供できないし……」

子供ができないのは自分が悪いのだと考え、敢えて夫を責めるようなことはしなかった。

するとそんな彼女の境遇に同情の念を抱く男が現れた。夫と同じ靴職人で、夫よりも若くて見た目にも精悍な男だった。

「ブリギッテさん。あなたのように素晴らしい女性が報われないなんて間違ってる」

男も教会に熱心に足を運んでいたので、そこで彼女を見かける度にそう言って彼女を慰めた。

ブリギッテは夫を愛し、家庭を一番に考えてはいたが、男の熱心な優しさの前にほだされてしまい、ある日、ついそれに縋ってしまったのだった。一度だけの過ちだった。

しかも男に体を許してしまったその日の夜、何故か夫も久しぶりに彼女を求めてきた。半年ぶりに女性として愛されたことで、彼女自身も意識しない艶っぽさが増していたのかもしれない。

そしてその数ヶ月後、彼女は自身の体調に変化を感じていた。それまでは判で押したようにしっかりと訪れていた<月のもの>が来なくなり、更には料理をしていた時に何故かその匂いがたまらなく不快になって、咄嗟に胃の中のものを戻してしまったりしたのだ。

「まさか、これは…?」

そのまさかだった。妊娠である。それを告げると、

「本当かい!? やった! やはり僕たちは神様に見放されてはいなかったんだ!!」

夫はそう声を上げて満面の笑みを浮かべつつ彼女を抱き締めた。その上、酒場の給仕係の女とも会わなくなり、以前のように妻を大切にするようになった。

ただまあ、こうなると事情を知る者なら誰もが思うことだろうが、二人の間にこれまで子供ができなかったのは実は夫の方に原因があったというのが真相だった。

さりとて、この頃の医療技術では誰の子かを正確に判別することはできなかった為、ブリギッテも何となく不安を感じつつもその子を夫の子供として受け入れることを心に決めていたのだった。

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