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エピローグ

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 こうして穏やかな生活を手に入れた一真と琴美は、徐々に精神的にも安定し、朗らかに笑うようにもなっていった。
 一真は仕事にも一層、身が入るようになり、<SANA>を支える一人として成長している。
 そんな彼のことを、玲那れいな一弧いちこふみが見守ってくれる。
 特に文は、親身になって指導してくれた。その熱心さには、先輩としての義務感だけではないようにも見受けられるが、どうなっていくかはまだまだ分からない。
 また、琴美の方も、煌輝ふぁんたじあ海美神とりとんとの関係もさらに深まり、頻繁に海美神の家に集まっては、
 <ガールズトーク>
 的なものも行えるようになったようだ。琴美も煌輝も、まさか自分がそんなことをするようになるとは、思ってもみなかったという。
 煌輝の家庭の問題についてはまったく改善されていないものの、少なくとも煌輝自身は精神的に落ち着いているらしい。
 そうして、
「こんばんは!」
 大晦日の夜、結人ゆうと沙奈子さなこ千早ちはやを連れて、一真と琴美の部屋を訪れ、沙奈子が作った年越しそばを食べながら深夜零時を迎え、
「あけましておめでとう」
「おめでとう」
「本年もよろしくう!」
 と、この安らいだ暮らしを掴んで初めての新年を迎えた。
 それを一真と琴美も、
「ありがとう、みんなのおかげだよ」
「本当にありがとう」
 満面の笑みで慶びを表した。
「で、今日はファンちゃんと海美神ちゃんと初詣に行くんだよな。気を付けていってこいよ」
 これまた沙奈子が用意したお雑煮を食べながら一真が言うと、
「うん、分かってる」
 琴美も笑顔で応えたのだった。

 なお、一真と琴美の両親の行方は相変わらず杳として知れないが、それは大きな問題ではなかった。それに子供は親の下を巣立っていくものだ。<子供に寄生する親>というのがそもそもおかしいはずなのだ。






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