上 下
382 / 2,361
幸せ

悼み方なんて(人それぞれなのにな)

しおりを挟む
新暦〇〇二三年八月二十八日。



ようが眠るように静かに息を引き取ったのは、それから一週間後のことだった。

あんなに強くても、死ぬ時は本当にあっさりしたものだ。もっとも、『強いからこそ』なのかもしれないが。

弱れば他の外敵に狙われるようになって命を落とすことも多い野生なら、こうやって静かに余生を送れることも滅多にないだろうし、それを思えばむしろ長く生きられた方なんだろうな。

「お疲れ様でした。ゆっくり休んでください……」

エレクシアと共に、ようの遺体を綺麗に整えてくれたシモーヌが、最後にそう声を掛けてくれる。

それからエレクシアが庭に運んでくれて、ひかりとシモーヌが準備をしてくれてる間にイレーネが掘った穴に、そっと下した。

あかりが積んできた花を皆で添え、

「おやすみなさい、ママ……」

あかりによる別れの挨拶で締め括り、皆で土を掛けていく。

俺とあかりだけじゃなく、ひかりとシモーヌも涙ぐんでいた。じんの時とは違って、母娘の別れを目の当たりにしたからかもしれないな。

ようの時には泣いて、じんの時には泣かなかったのを薄情と考える向きもあるかもしれないが、感情が昂ってしまうきっかけというのがあるかないかでもそういうのは変わってくるだろう。今回は実の母親を見送るあかりの様子が引き金になったというのもあるんじゃないかな。

他ならぬ俺がそうだったから。

じんの時にはただぽっかりと胸に穴が開いたような虚ろな感じがしただけで泣けなかったのに、今回は、あかりの様子を見てたらダメだった。

こういうこともあるから、誰かが亡くなった時に泣かなかったからといって悲しんでないと考えるのは早計なんだろうな。

感情や、悼む気持ちの表し方だって人それぞれだ。自分の思う通りの様子を見せてないからといって勝手に他人の心情を類推するのはやめてほしいよな。

両親が亡くなった時に泣かなかった俺を、

『薄情な子だね』

と蔑むように呟いた参列者がいたが、もしかするとそれが、俺の人間嫌いを決定付けた原因の一つだったかもしれない。

親が死ねば子供は泣くのが当然という自分の勝手な思い込みを他人に当て嵌めて子供の心を抉るような奴らが当たり前にいる<人間という生き物>に対する不信感を根付かせて何がしたかったんだろうな。

あの時の俺は、ただ、実感がなかったんだと思う。それともしかしたらまだ子供だった妹のことを考えて、兄である俺が泣いてちゃダメだと考えたのもあるかもしれない。

そういうことを想像もせず、聞こえるように勝手なことを言う奴が憎かったのは、覚えているな。

…って、ようを送るって時に、何を考えてるんだか、俺は……

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】いい子にしてたら、絶対幸せになれますか?

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:30

弔花のスパイス

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:46

Sランクパーティから追放された俺、勇者の力に目覚めて最強になる。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:3,767

妹にあげるわ。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:146,708pt お気に入り:3,961

異世界最強の『農家』様 〜俺は農家であって魔王じゃねえ!〜

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:674

処理中です...