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幸せ

歪な感情でも(正直な気持ちではある)

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新暦〇〇二三年九月三日。



ようが亡くなって数日が経ち、庭に作られたじんようれんの墓を見る。

備えられた花がすっかり根付いて花壇のようになったじんれんの墓と同じように、ようの墓もいずれは花で埋まるんだろうな。

それと同時に、墓そのものも増えていくんだろう。俺はさしずめそれを守る墓守か……

悪くない。大切な人を残して自分が去るよりは、見送る方がまだ気が楽ってもんだ。悲しませるよりは、自分が悲しむ方がいい。

歪な感情かもしれなくても、正直な気持ちではある。

思えば妹のことにしたって、あの子を残して俺が先に逝くようなことがなくて本当に良かった。

ああでも、見送られるよりは見送る方が楽ってのは、その時のことが影響してるのかも知れないな。あの子を見送れたことでホッとしたことが、影響してるのかもな。

グラスを片手に手酌でちびりちびりとやりながら、そんなことを思う。するとそこへ、ひそかがやってきた。

じんの時と同じように、俺を慰めに来てくれたらしい。俺に寄り添うように座って、体を預けてくる。

改めてひそかも年齢を重ねてるのが察せられた。毛で覆われてるから人間よりは分かりにくいかもしれないが。

それでもやっぱり可愛いし、好きなんだ。

こうやって俺が落ち込んでたりすると、それを察して慰めに来てくれるからっていうのもあるかもしれない。

人間、優しくされると気持ちが傾くからな。

と言っても、実際に人間社会にいた頃の俺は優しくされてもそれを疑ってかかってたわけで、本当に始末が悪い。ここに来たことで素直になれたんだから、なおさらだ。

そんな自分に苦笑いを浮かべながらも、ひそかに訊いてみる。

「…なあ、ひそか。お前にとってじんようはどういう存在だった…? 俺をめぐるライバルか? それとも家族か…?」

なんて俺の質問が理解できる訳もないのは分かってるが、ついつい問い掛けてしまう。

「…?」

当然、ひそかは不思議そうに小首をかしげながら俺を見るだけだ。

だが、それでいい。俺だって別に答えを期待して尋ねた訳じゃない。ただ訊いてみたかっただけだ。それに言葉で答えてくれなくたって、これまでの様子を見てれば分かる。

ひそか達はちゃんとお互いを<仲間>と認識してくれてた。だから俺は幸せを実感できてたんだ。穏やかな気持ちでいられた。一緒に暮らしてる者同士が険悪な仲だったりしたら、あんなにリラックスしてられなかったはずだからな。

家族同士でいがみ合ってる家庭があったりするが、なぜそんなことをしてるのか、俺には理解できないよ。

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