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新世代

走・凱編 ヤバいと思えば

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新暦〇〇二九年六月十日。



とまあ、いろいろ判断しなきゃいけない立場なんだが、俺は本質的に臆病な人間だからか、危険に対しては鼻が利く。じんふくようが攻撃的になってる時もなんとなく察してた。だからそういう時はなるべく近付かないようにもしてた。

俺が無事だったのは、そういうのも影響してたのかもしれないな。

ヤバいと思えば全力で逃げる。

勝てる目算のない相手には突っかからない。

まあ、勝てる相手にもわざわざこちらから突っかかったりはしないようにしてるが。

争いごとは嫌いだ。

野生の動物も基本的にはそうだと思う。勝てないと分かってる相手に挑みかかるのは、一部の例外的なものを除いてよっぽど追い詰められてる時だけだと思う。

その一方で、自分より確実に弱い相手には強く出られるなんてのは、野生の動物はともかく、人間の場合はただの卑怯者だよな。

で、そんな卑怯者は信頼されないから、結局は自分にとって不利益になる。

どうしてわざわざ自分から他人に信頼されないようなことをしておいて、それで、

『他人が自分を信頼してくれない』

みたいな泣き言を並べる奴がいるのかが、不思議で仕方ない。

なぜ自分の言動に責任が持てないんだ? 自分が招いたことの責任が持てないんだ?

分からない。

そうは言っても、俺もついつい泣き言を口にしてしまうことはあるからな。人間というのはそういうものだってことなんだろう。 

とは言え、自分の言動が招いたことについていちいち泣き言ばかりを並べてる人間については、積極的に関わりたくないというのも本音だな。

やっぱり、そういう形で損をしているよな。卑怯な奴というのは。

本人は認めたがらないかもしれないが。

なんてことはさておき、ビアンカの様子を見守る。

「おはようございます」

今日も彼女の方から挨拶してくれたから、問いかけてみる。

「どうかな。今の生活にも慣れたかな?」

すると彼女は、

「はい。皆さんとても優しくて、なんだかホッとします」

笑顔でそう言ってくれた。

ただ、俺にはまだそれが<社交辞令>にしか感じられなかった。なので今はこれ以上は踏み込まない。彼女はこちらが譲歩しても付け込んでくるタイプじゃないというのがよく分かる。

なら、もっと甘えても大丈夫だと知ってもらわなくちゃな。

少しくらいは付け込んでくるぐらいで丁度いいんだ。最初から付け込んでくるタイプならもうとっくに調子に乗ってるだろう。なのに彼女はいまだにこの感じだ。

と、その時、

「彼女も、レオンなんですよね」

ビアンカが訊いてくる。

彼女が視線を向けてる先を見ると、部屋のドアを開けっ放しで寝ているしんの姿が。

「ああそうだ。パルディアと番って、結局ここに居着いた<変り種>だよ。ここにはいろんなのがいるんだ。何しろ完全な<普通の人間>は俺一人だ。むしろ俺が異端だってことだな」

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