悪しき女帝のためのパヴァーヌ

京衛武百十

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歴史上最も忌むべき悪女

知識

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『これほどの土であれば、手をかければ現在の数倍の収穫を得られるはずだ。それを無駄にしているからリソースが不足する。民が虐げられているというのならば、その民が自ら自身の価値を示すべきだというのに……』

目に付いた雑草を次々と引き抜きつつ、ミカはそう思った。彼女の手は見る見る汚れて傷付き、血さえ滲み始める。

「ミカ、君がそんなことをする必要は……!」

ウルフェンスが止めるのも聞かず、ミカは自身の苛立ちをぶつけるように雑草を引き抜き続けた。

けれど、彼女一人がいくら励もうと、畑一面を覆いつくす雑草は減りはしない。何人もの人間が日々丁寧に手入れを続けてこそ畑というものはその真価を発揮するのだ。一時の思い付きで劇的に変わるものではない。

ミカにもそれは分かっている。分かっているが許せないのだ。これほどの宝を手にしておきながらそれを無駄にすることが。

宿場町で勤勉に働いている者はまだいい。だが、そうして勤勉に働いている者の陰でその稼ぎを当てにして怠惰を貪っている者も間違いなくいる。

「……」

傷だらけになり血が滲んだ自身の手を睨み、ミカの表情はやはり凍り付いていた。

そんな彼女の放つ気配は、ウルフェンスでさえ声を掛けることを躊躇わせる。

「……行くぞ、次だ……」

「あ、ああ……」

冷たく言い放ち馬に戻る彼女に、ウルフェンスも戸惑いながら従う。が、

「その前に、手を洗うんだ。傷を不潔にしていると命に関わると言っていたのはお前だろう? ミカ」

そう言って、ウルフェンスは馬の背に括り付けてあった容器を手に取り蓋を開ける。傾けられたそれからは綺麗な水が流れ、ミカの手の汚れを洗い流した。ウルフェンスが優しく丁寧に彼女の手を洗ったのだ。

その姿は、まさに心優しい兄が妹の手を洗ってあげている姿だっただろう。

しかも、綺麗になったとはいえ傷が残る彼女の手に、彼は清潔な<包帯>を手馴れた様子で巻きつけていった。

これらは、ミカが商人時代に編み出した方法だった。煮沸した水を、煮沸消毒した瓶に保存しておき、それで傷口を洗い、細長く整形した上に同じく煮沸して乾燥させた布で覆うという、医学の知識を持つ者なら当たり前のことを彼女は行い、それによって破傷風に罹る者を減らしたのだ。

もっとも、その効果を理解できない者達は相変わらず傷口の洗浄を疎かにしているので、破傷風を患い命を落とす者も後を絶たないが。

とは言え、そもそも不潔が当たり前のここでは人間達の免疫も元より高いゆえに、それで何とかなっているという面もある。

それでも、ウルフェンスは彼女の編み出したそれが意味のあるものだと察し、積極的に取り入れていたのだった。

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