24 / 112
歴史上最も忌むべき悪女
知識
しおりを挟む
『これほどの土であれば、手をかければ現在の数倍の収穫を得られるはずだ。それを無駄にしているからリソースが不足する。民が虐げられているというのならば、その民が自ら自身の価値を示すべきだというのに……』
目に付いた雑草を次々と引き抜きつつ、ミカはそう思った。彼女の手は見る見る汚れて傷付き、血さえ滲み始める。
「ミカ、君がそんなことをする必要は……!」
ウルフェンスが止めるのも聞かず、ミカは自身の苛立ちをぶつけるように雑草を引き抜き続けた。
けれど、彼女一人がいくら励もうと、畑一面を覆いつくす雑草は減りはしない。何人もの人間が日々丁寧に手入れを続けてこそ畑というものはその真価を発揮するのだ。一時の思い付きで劇的に変わるものではない。
ミカにもそれは分かっている。分かっているが許せないのだ。これほどの宝を手にしておきながらそれを無駄にすることが。
宿場町で勤勉に働いている者はまだいい。だが、そうして勤勉に働いている者の陰でその稼ぎを当てにして怠惰を貪っている者も間違いなくいる。
「……」
傷だらけになり血が滲んだ自身の手を睨み、ミカの表情はやはり凍り付いていた。
そんな彼女の放つ気配は、ウルフェンスでさえ声を掛けることを躊躇わせる。
「……行くぞ、次だ……」
「あ、ああ……」
冷たく言い放ち馬に戻る彼女に、ウルフェンスも戸惑いながら従う。が、
「その前に、手を洗うんだ。傷を不潔にしていると命に関わると言っていたのはお前だろう? ミカ」
そう言って、ウルフェンスは馬の背に括り付けてあった容器を手に取り蓋を開ける。傾けられたそれからは綺麗な水が流れ、ミカの手の汚れを洗い流した。ウルフェンスが優しく丁寧に彼女の手を洗ったのだ。
その姿は、まさに心優しい兄が妹の手を洗ってあげている姿だっただろう。
しかも、綺麗になったとはいえ傷が残る彼女の手に、彼は清潔な<包帯>を手馴れた様子で巻きつけていった。
これらは、ミカが商人時代に編み出した方法だった。煮沸した水を、煮沸消毒した瓶に保存しておき、それで傷口を洗い、細長く整形した上に同じく煮沸して乾燥させた布で覆うという、医学の知識を持つ者なら当たり前のことを彼女は行い、それによって破傷風に罹る者を減らしたのだ。
もっとも、その効果を理解できない者達は相変わらず傷口の洗浄を疎かにしているので、破傷風を患い命を落とす者も後を絶たないが。
とは言え、そもそも不潔が当たり前のここでは人間達の免疫も元より高いゆえに、それで何とかなっているという面もある。
それでも、ウルフェンスは彼女の編み出したそれが意味のあるものだと察し、積極的に取り入れていたのだった。
目に付いた雑草を次々と引き抜きつつ、ミカはそう思った。彼女の手は見る見る汚れて傷付き、血さえ滲み始める。
「ミカ、君がそんなことをする必要は……!」
ウルフェンスが止めるのも聞かず、ミカは自身の苛立ちをぶつけるように雑草を引き抜き続けた。
けれど、彼女一人がいくら励もうと、畑一面を覆いつくす雑草は減りはしない。何人もの人間が日々丁寧に手入れを続けてこそ畑というものはその真価を発揮するのだ。一時の思い付きで劇的に変わるものではない。
ミカにもそれは分かっている。分かっているが許せないのだ。これほどの宝を手にしておきながらそれを無駄にすることが。
宿場町で勤勉に働いている者はまだいい。だが、そうして勤勉に働いている者の陰でその稼ぎを当てにして怠惰を貪っている者も間違いなくいる。
「……」
傷だらけになり血が滲んだ自身の手を睨み、ミカの表情はやはり凍り付いていた。
そんな彼女の放つ気配は、ウルフェンスでさえ声を掛けることを躊躇わせる。
「……行くぞ、次だ……」
「あ、ああ……」
冷たく言い放ち馬に戻る彼女に、ウルフェンスも戸惑いながら従う。が、
「その前に、手を洗うんだ。傷を不潔にしていると命に関わると言っていたのはお前だろう? ミカ」
そう言って、ウルフェンスは馬の背に括り付けてあった容器を手に取り蓋を開ける。傾けられたそれからは綺麗な水が流れ、ミカの手の汚れを洗い流した。ウルフェンスが優しく丁寧に彼女の手を洗ったのだ。
その姿は、まさに心優しい兄が妹の手を洗ってあげている姿だっただろう。
しかも、綺麗になったとはいえ傷が残る彼女の手に、彼は清潔な<包帯>を手馴れた様子で巻きつけていった。
これらは、ミカが商人時代に編み出した方法だった。煮沸した水を、煮沸消毒した瓶に保存しておき、それで傷口を洗い、細長く整形した上に同じく煮沸して乾燥させた布で覆うという、医学の知識を持つ者なら当たり前のことを彼女は行い、それによって破傷風に罹る者を減らしたのだ。
もっとも、その効果を理解できない者達は相変わらず傷口の洗浄を疎かにしているので、破傷風を患い命を落とす者も後を絶たないが。
とは言え、そもそも不潔が当たり前のここでは人間達の免疫も元より高いゆえに、それで何とかなっているという面もある。
それでも、ウルフェンスは彼女の編み出したそれが意味のあるものだと察し、積極的に取り入れていたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる