悪しき女帝のためのパヴァーヌ

京衛武百十

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歴史上最も忌むべき悪女

悪役

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ホエウベルン家のルブルースは、本当に絵にかいたような、傲慢で尊大で、自身の能力に見合わない過大な評価を求めるタイプの人間だった。

そして、自分の望みは何でも叶えられるべきという考えの持ち主でもある。

しかも、王位継承権を持つホエウベルン家の嫡男であるという立場を利用し、気に入った女性は、たとえホエウベルン家に仕える臣下の妻であっても差し出させ、一方的に弄び、飽きれば僅かばかりの金品を渡して放逐するということを繰り返していた。そしてそれを『正しいこと』だと思っている。

実に分かりやすい<悪役>であると言えるだろう。

だが、ホエウベルン家が築き上げた人脈は大きな力を持ち、実際に国の運営にはそれを活用することも必要だった。ホエウベルン家そのものは悪辣でも、初代皇帝<ルオハイン=ラ=セヴェルハムト>に連なる血筋というのは、この時代の王族や貴族にとっては大変な影響力を秘め、それ自体が莫大な価値そのものだった。だからこそホエウベルン家がまるでフィクションに出てくる悪役のような最低最悪の存在であっても排除はできなかったのだ。

セヴェルハムト帝国の人々自身が、それを必要としていたのである。故に今日まで続いてしまった。

<絵に描いたような悪役>が存在するにも、やはりそこに至るまでの背景というものは確かに存在し、相応の責任というものはある。

<血筋>というものばかりを重視するなら、血筋さえ立派であれば当人の人間性など問わないと言うのなら、それによって生じるあらゆる不利益はその国の人間が等しく背負うべきものなのかもしれない。

しかし、本来はこの国の人間ではないミカにとってはそのようなものはさして価値がなく、また、一度は国を追われて亡命し、<外の価値観>に触れたルパードソン家のウルフェンスや、大使としてトルスクレム王国に赴任しやはり外の価値観を学んできたネイサンにとってはそこまで価値があるものでもなかった。無視はできないものの、『それしかない!』と思い込むほどまでのものでもない。だからこそウルフェンスは、王位継承に熱意を見せるルブルースに対して遠慮して二の足を踏んでいたリオポルドに対し『ルブルースを誅殺する』とまで言えたのだと思われる。

ただし、間違ってはいけない。

『伝統に縛られない』

『慣習に縛られない』

ことが正しいのではない。

『因習に縛られて結果として国を衰えさせてしまっては本末転倒も甚だしい』

というだけに過ぎない。

国が国として成立するために必要な伝統や慣習までも蔑ろにしては国としての求心力を失ってしまうこともまた、十分に有り得ることだった。

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