悪しき女帝のためのパヴァーヌ

京衛武百十

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歴史上最も忌むべき悪女

乳母

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次に立ち寄った、マオレルトンという貴族が治めるマオレルトン領は、領主であるホーボー=ル=マオレルトン卿からして、絵に描いたような穏やかな気性の<お人よし>だった。

実はマオレルトン家は、代々、リオポルドが生まれたモーハンセウ家の乳母を輩出してきた家系で、初代皇帝の頃から続く由緒正しい名家でもあった。

ただ、マオレルトン家から派遣された乳母に育てられたリオポルドがそうだったように、どうにも人がすぎると言うか、危機感や緊張感に欠けると言うか、<いい人>なのは間違いなく<いい人>なのだが、もはや魑魅魍魎の巣窟と言っても過言ではない政治の世界で力を振るうにはまったく不向きな性分だったが。

「ああ…こんなに立派におなりに……マーレは嬉しゅうございます」

リオポルドを見るなりそう言って涙ぐんだのは、リオポルドが王位を継承する直前まで乳母として生活のすべての面倒を見ていた、ホーボー=ル=マオレルトン卿の姉に当たるマーレ=ルラ=マオレルトンだった。

ふくよかで柔和で朗らかで、見るからに<母性の塊>といった風情の彼女に迎えられ、リオポルドも幼子のようなあどけない表情に戻っていた。はっきり言って実の母親よりも母親として認識しているのが傍目にも分かってしまう。

しかも元々の顔つきが美麗かつ柔和なので、<母親と息子>ではなく、<母親と男装している娘>といった風情にさえ見える。

「会いたかった、マーレ! 変わりないか? 子供達は皆元気か?」

「はい、皆、息災です。それもこれも陛下の御威光の賜物」

「何を言う、マーレ。お前達マオレルトン家の徳があればこそのものだ」

マーレは、リオポルドの乳母であると同時に、五人の子供の母親でもあった。その子供達は、全員、リオポルドよりも年上で、彼のことを弟のように可愛がってくれたのだという。今は全員、仕事だったり他の貴族の下に嫁いでいったりでこの場にはいないものの、関係は良好そのものだというのがこの二人の様子を見ているだけでも分かるだろう。

そんな和やかな再開劇の後、リオポルドの背後に控えていたミカの姿を見たマーレは、

「ああ、これは王妃様。遠路はるばるよく我がマオレルトン領にお越しくださいました!」

にこやかに満面の笑みを浮かべながら彼女はミカの前に歩み出て、深々と礼をする。

これにはさすがにミカも穏やかな表情で、

「お世話になります」

と応え、

「ああ、そんな、もったいないお言葉!」

とマーレを慌てさせたりもした。

こうして訪れたマオレルトン領で、<お披露目行脚>は、半分を終えたことになったのだった。

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