悪しき女帝のためのパヴァーヌ

京衛武百十

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歴史上最も忌むべき悪女

作法

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自分に与えられた部屋のドレッサーに突っ伏した後、彼女が同じような姿を見せることは二度となかった。

おそらく彼女の中で、スイッチのようなものがはっきりと切り替わったのだろう。

マオレルトン領の次の訪問先を訪れた彼女は、ウルフェンスを伴って、森を抜ける道へと入っていった。

行商を生業とする者くらいしか知る者がいない<裏道>だった。ここでミカは、新たなルートを見付けようとして入ってきた商隊に発見されて保護されたのである。

そしてミカは、そこからさらに森の中へと踏み込んだ。

「ミカ様、危険です」

と声を掛けるウルフェンスを無視して。

しばらく入ったところが崖になっていて、その崖の斜面には人が腰を屈めてようやく入れそうな小さな穴、いや、<洞窟>があった。

そしてその洞窟の脇の地面には、人間の頭くらいの大きさの石が、不自然な形で突き刺さっていた。

ちょうど<墓標>のように。

するとミカは、石に向かって両方の手の平を合わせて顔の前に掲げつつ、やや頭を下げながら目を閉じた。

それは、この国の<死者を弔う仕草>に似ていたが、少し違っている。

『彼女の故郷の作法……か?』

ウルフェンスはそう感じたものの、口には出さなかった。

『きっと、彼女の従者の墓なのだろう。ここはその者の最期の地なのだろうな……』

しばらく動かなかったミカは、不意に頭を上げて、今度は洞窟へと躊躇うことなく入っていった。

と言っても、背中が見える程度のところでごそごそしただけで、すぐに戻ってきたが。

「手間を取らせたな。では、行こうか」

いつもと変わらず冷たく言い放った彼女の首から、あの小さな袋が付いた紐がなくなっていたことに、ウルフェンスは気付かなかった。そもそも、彼女がそんなものを身に着けていたこと自体、彼は気付いていなかった。

それを知っているのは、彼女の身の回りの世話をしていた侍女くらいのものだろう。というくらい、目立たないものだったが、確かにこの日を境にミカはそれを身に着けなくなった。

『あなたを血で汚すわけにはいかないからね……』

この時のミカがそんなことを考えていたことさえ、誰も気付かない。

それくらいのささやかなことだった。

だが、それが節目だっただろう。

さらに次の領地は、<セヴェルハムト帝国の闇>とさえ言われる、領主でさ匙を投げて管理を諦めたスラムが広がる場所を抱えた地だった。

どこの国にもそのような場所はあるのだろうが、このセヴェルハムト帝国もご他聞に漏れずやはりそういう場所はあったのだ。

<ならず者>が集う暗部が。

さすがにそこに足を踏み入れることはウルフェンスが認めなかったものの、そこから少し離れた町で、ミカはある人物と顔を合わしたのだった。

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