悪しき女帝のためのパヴァーヌ

京衛武百十

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歴史上最も忌むべき悪女

帝国のためだ!

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他ならぬミカ自身が行った若い貴族達の<意識改革>は、ミカの国家運営の大きな障害となっていた。

にも拘らず、ミカは、彼ら若い貴族がまっとうな<議論>によって自分を糾弾してくる分には好きにさせていたのである。

しかしそれと同時に、法を犯す者に対しては容赦はない。

その者がいくら、

「帝国のためだ! 帝国の臣民らのためだ!!」

と唱えようとも、貴族の屋敷を焼き討ちして備蓄の食糧を強奪したりした者については例外なく斬首刑とした。

すると、当の貴族達の中に、自分達が溜め込んでいた食料などを、領民に配布する者も出始めた。

これはおそらく、春先の天候が良好で作物の成長が順調だったことで夏以降の食糧事情が大幅に改善されると予測できたことも大きかったのだろう。

だがそれでも、収穫が早い作物が実りを迎えるまで耐えられるかどうかというほど困窮していた者達にとってはこれ以上ない救いとなり、同時に、国民を恐怖によって縛ろうとするミカに代わって自分達を守ってくれるという期待を生み、それが求心力となった。

しかも、かつての<領主と領民>という枠に収まらないそれは、波のようにうねりつつ帝国を覆い尽くしていく。

それと共に、ミカを、

『帝国を私物化し貪ろうとしている悪女』

として糾弾する声も大きくなっていくのが分かる。

対して、彼女の傍でその決断を見守ってきたネイサンは、かつて彼女のことを『恐ろしい』とも言っていたにも拘らず、

『愚かな…! ミカ様が私欲で国を差配していると思うのか……!?』

そう憤ったものの、彼の父親も領民も、ミカを<悪女>と責める。

『どうして……どうしてミカ様のお心が分からない……!? ミカ様ほど帝国のことを考えてくださっている方はいらっしゃらないというのに……!』

だが、控え室で苛立ちまぎれについ壁をガツン!と殴ってしまった時、拳がめり込んで穴が開いてしまった。

「いかん……っ!」

さすがにこれにはネイサンも焦ってしまったが、その穴を見た時に何とも言えない違和感を覚え、

「なんだ……?」

穴を覗き込んむ。

建築に関しては必ずしも造詣が深いわけではなかった彼だったものの、覗き込んだ穴の中がまるで小さな水路のようになっていて、しかもよく見ると僅かに光が漏れている場所に気付くと、壁の中に光が漏れていた辺りまで移動して、指で触れてみた。

『柔らかい……?』

そこは軽く指で押しただけで壁紙が凹み、明らかに穴が開いているのが分かる。

「……!」

自身の中に湧き上がる異様な感覚に突き動かされるように彼は短剣を手に取り壁紙を切り裂いていく。

するとやはりその部分には壁がなく、そして小さな水路のような形になっていたのだ。

「まさか……」

思わず呟いたネイサンの唇は小さく震えていたのだった。

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