悪しき女帝のためのパヴァーヌ

京衛武百十

文字の大きさ
105 / 112
牢獄の女怪

程遠い

しおりを挟む
自身の命が終わるその日を迎えても、ミカはやはりいつもどおりに身支度を整えた。そこに、

「さあ、いよいよだぞ!」

どうやら担当者らしい中年男がいかにも横柄な態度で独房の扉の前に立ち、声を掛けてきた。

「ああ……そうだな……」

ルパードソン家の居城を改修した監獄では、フェンブレンやその前任者でさえここまでじゃなかったというその振る舞いに、ミカは思わず苦笑いを浮かべる。

するとその担当者は、カーッと顔を紅潮させて、

「何がおかしい! この魔女が!!」

警棒で鉄格子をガン!と殴りつけながら怒鳴った。そんなことで彼女が怯むはずもないことも知らず。

しかしミカはそれに対しても平然としていた。この程度に反応しても得るものは何もない。

なので取り敢えずは望みどおりに一切の表情を消し去り、冷淡な顔に戻して見せた。

もっとも、この担当者が本当に望んでいるのは、命乞いをして泣き叫ぶ姿なのだろうが。

しかし残念ながらそういう振る舞いはできそうにない。

「さすがは魔女。可愛げの欠片もねえな…っ!」

男はそう吐き捨てつつ、看守に扉を開けさせる。

その向こうには、何人もの兵士の姿。ミカをギロチン台にまで護送するための人員なのだろう。

さりとて、ミカ自身には抵抗する気などまったくないので、これはどちらかと言えば暴徒化した民衆がギロチンに掛ける前に彼女を殺してしまわないようにという意味合いのものかもしれない。

事実、監獄内でミカが馬車に乗せられる時にさえ、中が覗ける僅かな隙間に殺到した民衆が彼女の姿に気付くと、

「魔女だ!!」

「殺せ! 今すぐ殺せ!!」

異様な興奮と共に怒声を上げた。そしてミカを乗せた馬車が出てくると悟ると、監獄の出入り口に押し寄せようとする。

しかしそれは槍を構えた警備の兵士に阻まれ、近付けなかった。

「危ねえ!」

「押すな!!」

後ろから押されて危うく突き出された槍の切っ先に飛び込んでしまいそうになった者が慌てて声を上げる。

そんな中、馬車が出てくると、次々と石が投げつけられた。

それを見越して御者も馬も、プレートアーマーという、全身を覆う鎧を身に付けていたが、そちらにもガンガンと石が当たる。

なので、馬が怯えて暴れないように御者が制御するのも一苦労だったようだ。

プレートアーマーを装備した馬を繋いだ馬車が暴走などすればそれこそ大変なことになるというのに、興奮した民衆にはそこまで考えることができないらしい。

この様子だけを見ていると、まだまだミカが望んだ理性的な社会というものには程遠いという印象もあるものの、

『一朝一夕に変わってしまうものでもないからな……長い目で見なければいけないだろう……』

彼女自身、窓すら塞がれた馬車の中で、外の喧騒を感じつつ、自らにそう言い聞かせていたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...