コグマと大虎 ～捨てられたおっさんと拾われた女子高生～

住み込みの家政婦

『＜住み込みの家政婦＞を雇ってるって思っておけばいいんじゃないの？』
　と言った上で、牧島まきしまは付け足す。
「ただ、警察や児童相談所とはちゃんと話しておいた方がいいと思う。でないと後で厄介なことになるかもだし」
　とも。
　確かにそれは思う。だから俺は、休憩時間中に、改めて警察の相談窓口に電話した。緊急通報の方じゃない、＜相談窓口＞だ。すると少年課に回されて、大虎のことをよく知ってるという（それだけ手を焼かされたってことだろうな）＜溝口みぞぐち＞という刑事と話をすることになった。その溝口は、
「我々としても、本当に古隈さんには申し訳ないと思ってます。ただ、ほとほと手を焼いてる次第でして……」
　なんかもう気の毒なくらいに疲れた声で。
「なので、児相とも連絡を取って、今回については大虎本人の意思を尊重してこのまま古隈さんにご協力いただくということで話を進めさせていただければ大変に助かります。もちろんこのことは、署としても公式には認められませんけど、特例という形で情報共有は図ってまいりますので」
　とのことだった。それに対して俺は、
「この会話、録音してますけど、いいですね？」
　そう念を押すと、溝口は、
「はい、もちろんです。こちらとしてもちゃんと古隈さんに承諾をいただいた上での話だということを証拠として残していただければ助かります」
　とまで言い出して。
『苦労させられてたんだろうなあ……』
　って思ってしまったり。
　そして溝口は実際に児童相談所に連絡を取ってくれたみたいで、今度は児相の相談員だという＜倉城くらき＞という男から電話が入る。
「大戸おおと羅美らみさんを一時保護してくださってらっしゃるとのことで」
　自分の身分を明かした後の開口一番そう言ってきたから、児童相談所も対応に苦慮してたんだろうなというのが察せられた。あいつのことだから児童相談所が来ても、
『拉致される～！』
　とか騒いだんだろう。そういうのも無視して強行に対応するところもあるのかもしれないが、少なくともこの地域の児相はそこまでのことはしないってことなんだろうな。
『なるべく穏便に』ってことか。
　正直、俺も『力尽くで』ってのは＜悪手＞だと思ってる。もちろん凶暴なのが凶器でも持って暴れてるってんなら話は別でも、虐待された子供とかに対してそういうのは、
『力尽くで言うことを聞かされる』
　ってことに慣れちまってるだろうからな。＜大人の常套手段＞ってことでかえって反発を招くだけだろうってのは感じるんだ。その時にはおとなしく従ったように見えても、恨みを募らせるだけだろうしな。