コグマと大虎 ~捨てられたおっさんと拾われた女子高生~

京衛武百十

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もしかして娘さんからか?

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『ありがとうね。じゃあまた羅美ちゃんの様子を教えて』
 休憩室で電話を掛けながらそう口にした牧島まきしまを見掛けて、俺も休憩室に入っていった。
「もしかして娘さんからか?」
 尋ねると、
「そうだよ。羅美ちゃんの学校での様子を見てもらってんの」
 と笑顔で応えてくれる。だから俺も、
「ありがとうな。羅美のために気を遣ってくれて」
 素直に感謝する。しかし牧島は、
「う~ん、『気を遣ってる』っていうのとはちょっと違うかな。私としてもせっかくの機会だから、自分の周りでこういうことがあった時にどう対処すればいいのかその<見本>にしたいってだけだし」
 さらっとそういうことを言ってくる。けど、不思議と腹は立たない。何しろ、別に羅美を傷付けようとしてるわけでもないしな。羅美を見守るための理由付けとしてそう言ってるだけなのも分かるんだ。
 牧島は、決して<ただの善人>じゃない。物事を合理的に論理的に理性的に捉えて判断する奴だ。そうして何が一番の<利>になるかを考えることができる奴なんだ。こいつが何かをする時には、必ず自分自身にとっての利を見付けてるからなんだよ。
 しかも、誰かを傷付けることで苦しめることでそれを自分の利にしようとは思ってない。それをすると恨みを買って結局は自分にとっての不利益を生むことが分かってるんだよ。
 そういう意味での<損得勘定>ができる奴だからこそ信頼できる。
「で、学校での羅美の様子は?」
 俺が改めて尋ねると、
「相変わらずの低め安定ってとこみたいかな。表立ってイジメとかはないみたいだけど、完全に無視されてるみたい」
 とのことだった。だが俺はそれを聞いてむしろ安心する。
 無視。結構じゃないか。学校で無視されてる分、家に帰ってきた羅美を俺が構ってやればそれで済む。家で構ってもらえない分を学校で補おうとしてそれで無視されたらつらいかもしれないが、家で十分に構ってもらえててそれで学校で無視されてるだけなら、ほら、状況が逆転してるだけだろう?
 他所の子供には羅美の事情は理解できないだろうから、羅美の気持ちを受け止めてもらおうなんていうのもそりゃ難しいだろ。て言うか、そもそもそんな<重い事情>のフォローを子供に期待する方が間違ってる。子供にやらせようとするのが間違ってる。子供を育てたこともない子供に分かるのは、
 <子供の立場としての感情論>
 くらいだろ。社会の仕組みもよく分かってねえ、社会を実際に経験したこともねえ、そんな子供に、
 <羅美みたいな奴の事情の支援>
 なんかなんでできると思うんだよ?
 できると考える方がおかしいだろ。
 だったら余計なことをせずそっとしておいてくれる方がありがたいんだよ。

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