コグマと大虎 ~捨てられたおっさんと拾われた女子高生~

京衛武百十

文字の大きさ
81 / 106

込み入ったことを訊いて……

しおりを挟む
「古隈さん……?」
 羅美の検診に付き添うために行った病院で、声を掛けられた。
「あ……どうも……」
 視線を向けた先にいたのは、仕事で訪れた時によく顔を合わす看護師だった。名前は確か、<島本>だったか…?
 名札を見ると確かに<しまもと>と書かれていた。
 島本は俺の隣にいる羅美をちらりと見て、
「娘さんですか?」
 と訊いてきた。まあ、俺の歳なら羅美くらいの娘がいても不思議じゃないし、牧島まきしまには実際、羅美と同級生の娘がいるしな。だから俺も、
「はい。わけ有って名字は違いますけど、娘です」
 と言っておいた。法律上は赤の他人だが、事実上今は俺が保護者だし、<言葉の綾としての娘>ってことでいいだろ。
 すると島本もいろいろ察したか、
「あ、ごめんなさい。込み入ったことを訊いて……」
 バツが悪そうに応えた。本来、病院なんかに勤めてるとそれこそいろんな事情を抱えた患者が来るだろうに、話の取っ掛かりだとしてもそういうのを訊くのは悪手だと思うぞ。俺は別に気にしないが。
 余計なことは一切口にせず、必要なことだけをするのが結局は吉だと俺は思う。明らかに虐待を窺わせる所見があったりしたら警察に通報するようには言われてるらしいが。
 実際、俺が担当してる他の病院でも、虐待の疑いがある子供が救急で担ぎ込まれてきてその場で警察に通報。母親とその彼氏が逮捕されたという話はあった。あん時はマスコミが取材に押し掛けててあれこれごたついて俺の仕事が後回しにされてムカついたな。
『病院にまで押しかけてんじゃねーよこのマスゴミが!!』
 とは、正直、思ってしまった。そこで騒動を起こしたらアレだから抑えたけどよ。
 とにかくここで島本が何か騒ぎを起こしてくれたら話的には盛り上がるのかもしれないが、それもノーサンキューだ。余計なことはしないでくれ。
 そして島本もそれからは事務的に対処してくれた。そもそも、産婦人科に来る未成年の女の子なんて、<触れられたくない事情>を抱えてるって考えた方がいいだろ。羅美は今回は妊娠で来てるが、普通の病気だって一般の内科とかじゃなくて産婦人科に来るようなそれなら、触れられたくないってのが普通じゃないか?
 島本は経験の浅い看護師らしいが、その辺りもわきまえた方がいいと思うぞ。でないと必要のない厄介事を起こすかもしれないし。
 さらにそこに、
「古隈さんと羅美さんですか…?」
 スーツ姿の中年女性が声を掛けてきた。
「私、この度改めて羅美さんの担当をさせていただくことになりました森本と申します」
 児童相談所の職員であることを示す名札を掲げながらその女性は頭を下げたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

処理中です...