コグマと大虎 ～捨てられたおっさんと拾われた女子高生～

あんな運転するような奴に

　でもまあ、あとで分かったことだが、トラックの陰から何かが飛び出してきたことに気付いた瞬間に俺が咄嗟にブレーキを踏んだから衝突したのがボンネットのところで済んだというのが大きかったようだ。
　しかも、相手のドライバー。俺が愛車で初めて羅美とドライブをした時に、ディスカウントスーパーの駐車場で強引に前に出てきたワゴンに乗ってた奴らしい。白バイに止められて切符を切られていた時に一瞬見た、いかにもイキった髪型と顔立ちが同じだったからピンと来たんだ。
　まったく。あの時もこっちが古臭い軽自動車だったからナメて『止まるだろう』と考えて強引に出てきたんだろうな。で、今回も、『行けるだろう』で信号を無視して突っ込んできたわけだ。
　本当に、同じ自動車を運転する者としてこういう奴は勘弁してほしい。なんで免許を与えたんだ？　と思ってしまう。
　まあそれでも、任意保険には入っててくれたから、こっちの保険会社との交渉で、向こうが九割こっちが一割の過失割合で済んで、保険金はガッツリもらえることになった。かなりの額の慰謝料込みだ。
　営業車に積まれてたドライブレコーダーには、俺が完全に矢印信号が出てから発進したのと、俺が発進させた時には相手のクルマが対向車の陰でまったく見えなかったことと、俺が咄嗟にブレーキを踏んだことでこちらがほぼ完全に停車した状態のところに向こうが突っ込んできた状況がはっきりと記録されてて、正直、十対ゼロにならなかったのが不思議なくらいだったと思う。まあそれは向こうの保険会社が頑張ったということなんだろう。
　乗ってたのは営業車で俺が負担する分はまったくないし、治療費もまあアレだし、慰謝料の分だけ儲かったと思えば別にもういいや。相手はシートベルトしてなかった所為で逆にエアバッグの衝撃で肋骨と顎の骨を骨折して全治三ヶ月の重傷だったそうだけどな。シートベルトをしておけばそこまでじゃなかったらしい。
　でも俺が軽傷だったことで向こうも助かったんじゃないか？　これでもし俺が死んでたりしたら、それこそ大変だっただろ。
　でも、加害者家族が見舞いに来ようとしたのは断っておいた。保険会社を通してしかやり取りもしない。あんな運転するような奴にこっちのことを詳細に知られてたまるか。メンドクサイ。

　事故当日、救急搬送された病院では検査入院を勧められたがそれも断って家に帰ると、
「え！？　どうしたん？　オッサン！！」
　頭にガーゼを当てて白い網網のヤツを被った俺を見て羅美が声を上げた。本当に心配してくれてるのが分かる姿だった。
「ああ、ちょっとクルマでぶつけられてな」
　とだけ言って、夜のニュースで事故現場の映像が流れてたが、それも知らんぷりをしておいた。これ以上、羅美を心配させてたまるかってんだ。