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第三幕

よくよく考えたら、両親は兄のことを認めてたわけじゃないんだっていうのもよく分かるんだ。兄のことを認めてるフリして、実際には

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アオは、毎日、いろんなことを考える。

『しっかし、現に売れてるものをバカにしたがる心理ってなんなんだろうね?

商売なんだから売れなきゃ意味ないわけで、それでやってるってことは商売として成立するだけの市場があるってことじゃん。なんでその現実が見えないの?

まあ、見たくないだけなんだろうけどさ。

自分の好みに合わないものが、商売として成立するくらいに人気があるってことを。たぶん、『自分の好みに合わないものが、商売として成立するくらいに人気がある』ということで、自分が否定されたような気がするんだろうね。

私は、悠里ユーリ安和アンナ椿つばきにそんな想いさせないよ? 少数派だって全然構わない。だって私にとって悠里や安和や椿は、世界の全てだから。

自分の好みに合うものしか認められない人って、自分の親にそう言ってもらえなかったの? 実感させてもらえなかったの?

まあ確かに、口先だけの親にそんなこと言われたって納得はできないだろうけどさ。ってか逆に不信感ばかりになって自分の価値観しか認めないのになりそうだとは思う。

私の兄がまさにそれ。

両親から溺愛されて、『お前は素晴らしい!』『あなたこそがこの世の宝!』的に言われてきたのを私も傍で見てたけど、兄が内心じゃ両親のことをバカにしてたのも知ってる。『口先ばっかりのバカな大人』って思ってたのも知ってる。

だけど自分を持ち上げてくれるからそれなりに気分は良かったんだろうね。それに応えていい子のフリをしてればそれこそちやほやしてくれてたし。

でもさ、よくよく考えたら、両親は兄のことを認めてたわけじゃないんだっていうのも分かるんだ。

兄のことを認めてるフリして、実際には、『優秀な子供を育てられてる自分自身に酔ってる』だけだったのも今なら分かる。兄のことを褒めてるつもりで自分で自分を褒めてるっていうね。

そうじゃないんだよな~。そうじゃない。そんなのは子供に見抜かれるんだよ。そしてバカにされる。見下される。信頼されない。

でも、私の両親は、自分のためにしか子供を育てられない人だったから、どう頑張ってもあの結末だったんだろうけどね。

元より子供を持ったこと自体が間違いだったんだろう。適性がなかったんだよ。たぶん。

そういう私も、ミハエルと出逢ってなかったら子供生んでなかったけどさ。無理して子供作ったって、両親と違う道を歩もうとして結局は似たような結果に終わってた気しかしない。

私は出逢いに恵まれただけだ』

アオの言葉は、彼女自身に対する<戒め>なんだ。自身が他人を傷付ける側にならないようにというね。

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