凶竜の姫様

京衛武百十

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出逢い

ドーベルマンSpec.V3、対応する

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ドーベルマンSpec.V3に対して強い警戒感は見せつつも、やはり斬竜キルはいきなり襲い掛かるようなことはなかった。あまりに奇形で異様なそれに無為無策で攻撃を仕掛けるのは危険すぎると感じたのかもしれない。

実際、錬義れんぎと互角の彼女では、ドーベルマンSpec.V3には勝てなかっただろうが。

しかしこれは、<凶竜の姫様>である彼女がどれほど人間社会に対して危険な存在であるかを確認するという意味もあった。

実は、ここまででえられた彼女の細胞片のDNA鑑定により、<竜女帝>との血縁がほぼ確定されたのだ。が、だからと言って<凶竜の子>が人間を強く憎悪し和解の余地もないほど凶暴であるとは限らないことはすでにこれまでの研究で判明しているので、斬竜キルを排除するとか放逐するとか、そういう話にはならない。

あくまで個別にリスク評価を行うためである。

錬義れんぎもそれはよく知っているので、いきなりドーベルマンSpec.V3が現れた理由も察していたし、コテージの周囲に仕掛けられた<指向性地雷クレイモア>のこととも合わせて、特に気にしてもいない。必要だから行っているだけの単なる<用心>だと。

それでも地球人の場合だと誤作動なども心配してしまうところだろうが、ここまで誤作動が起こった事例は存在しない。ゼロではないとしても、まあ、飛行機事故に遭う確率のようなものだろうと推測されているし、そもそも死と隣り合わせの日常が当たり前の錬義にとっては気にするほどのことでもないのだ。

「やあ、任務ご苦労様」

気軽な感じで話し掛けると、ドーベルマンSpec.V3の方も、

「おはようございます。錬義様。よく眠れましたでしょうか?」

まるで宿泊施設の従業員のように丁寧に応えてきた。実際、このドーベルマンSpec.V3はこの研究施設の<職員>でもあり、必要とあればホテルスタッフ的な対応も行う機体であった。

「ああ、久しぶりにゆっくり眠れたよ。ところで、彼女と一緒に散歩に出掛けたいんだけど、いいかな?」

拒まれないことは知りつつも、錬義れんぎはそう尋ねる。これに対しても、

「はい。本日は天候もよく、絶好の散歩日和です」

アンデルセンと同じくヘルメットにゴーグルを着けた軍人のような無骨さはありつつ、柔和な対応を、ドーベルマンSpec.V3はしてみせた。

「ありがとう。じゃ、彼女に街を案内してくるよ」

そう言って、手を振りつつ斬竜を伴い歩き出す。

なお、錬義はさすがに靴を履いているものの、斬竜は裸足だった。彼女はまだ、靴を履くところまではいっていないのだ。

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