死の惑星に安らぎを

京衛武百十

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フローリアCS-MD9

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現在、偽生症(Counterfeit Life Syndrome)=CLS患者を安楽死させる為に用意された拠点は、リヴィアターネ全土では数千を数える。その殆どが、軍用車両にメンテナンス用トレーラーを連結しただけの簡易なものであった。

リヴィアターネの主要な都市すべてを焼き払ったロボット艦隊による大規模爆撃の後、状況を確認する為に降下した軍用レイバーギアによる調査で、殆どのCLS患者を処置出来たが、強固なシェルターや地下施設、または爆撃目標からは遠く離れた地域などではなおもCLS患者の活動が報告された。

それに対し総合政府は、不要になったロボットによりこれを個別に処置し安楽死させることで人間としての尊厳を取り戻させるべく、<CLS患者特例法>を制定、施行した。

それは非常に簡単に乱暴に言えば、廃棄処分が決まったロボットに、CLS患者を処置する為の命令を与えれば、リヴィアターネにロボットを廃棄することを認めるという特例法だった。これにより、多くの民間業者がリヴィアターネにロボットを廃棄、その多くはCLS患者をおびき寄せる疑似餌にもなるとの理由から、人間に非常によく似た外見を与えられたメイトギアであった。

なお、余談ではあるが、人の姿を模したロボットについてはかつて<アンドロイド>という名称が用いられていたが、現在は完全に廃れているカテゴライズである。

ロボットが普及し多種多様なそれが市場に溢れたことで、

『果たしてどこまでをアンドロイドと称すればいいのか?』

という混乱が生じ、やがて、

『俗称としてはすべて<ロボット>でいいのではないか?』

という形で終息した故であった。

まあそれはさて置くとして、調査に為に送り込まれた軍用レイバーギアも回収されることはなく、そのまま地上に残された軍の施設や民間の施設から物資を徴発。相互に連絡を取り合えるように主に軍用の戦闘指揮車とメンテナンス用トレーラーという組み合わせでリヴィアターネ全土にそれらを配置し、簡易な拠点とした。

任務にあたるのはロボットだけなので、人間のような生活用の施設は必要ない。故にそれで十分であった。

もちろん、それらの配置を行った軍用のレイバーギアが最初にCLS患者の処置にあたったが、事故や不測の事態により次々と行動不能に陥り、それを補う形で廃棄されたメイトギアが<空き家>となった拠点に現れ、CLS患者の処置の任務を引き継いだという訳である。

現在でもリヴィアターネ全土では数千のメイトギア、レイバーギアが黙々と任務にあたっている。今回、グローネンKS6がいた拠点に現れたフローリアCS-MD9も、ロボットがいなくなった拠点を目指し移動してきたということだ。

そこには既にグローネンKS6がいた訳だが、そちらは厳密にはCLS患者の処置の任務についている状態ではない為、フローリアCS-MD9はそのままこの拠点を使うことになった。

任務にあたって彼女は、機能を失ったまま放置されていたアレクシオーネPJ9S5の残骸を撤去。仮の廃棄物置き場を決めてそこに置いた。

その彼女の傍には、通常モードで作動を続けるグローネンKS6が寄り添っていたのだった。

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