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バイタルサイン
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『な…!? バカな…!!』
タリアP55SIは我が目を疑った。通された応接室らしきところで待っているとそこに現れたのは、防護服などを一切身に着けていない明らかな生身の人間だったからだ。しかも、黒い長髪で眼鏡をかけ白衣を纏った美麗な若い女に見えるその顔には見覚えがあった。
『これが、アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士……
まさか、メルシュ博士も不顕性感染者…!? いや、ワクチンの開発に成功したのか……!?』
まあそう考えるのも無理はないだろう。なにしろ相手はあの有名な天才科学者なのだから、ワクチンの開発に成功したのだとしても何の不思議もなかったし、むしろその可能性の方が高いと思えた。その上で、
『それにしても…若い…?』
などとつい思ってしまった。確か年齢は八十を超えている筈だった。健康寿命が二百歳を超えた今では八十歳などまだまだ若い部類には違いないが、それにしても若すぎる。十代と言われても十分に通じるだろう。ニュースなどで写真は見ていたが、それよりも更に若く見えた。特に化粧などをしているようにも見えないにも関わらずだ。
その理由はすぐにピンときた。メルシュ博士と言えば再生医療や老化抑制医療の分野でも有名な人物である。しかも、自分の体を使って未承認の老化抑制技術の実験を行ったということで起訴され服役したこともあった筈だから、その実験の影響なのだろうと。
「よく来てくれたね。まあ顔ぐらいは知ってるかも知れないが、私がアリスマリア・ハーガン・メルシュだ。よろしく」
満面の笑顔と共に差し出された右手を見て、タリアP55SIは声を発した。
「バイタルサインを取得してもよろしいでしょうか?」
メイトギアは、人間の健康を守るという役目もあって、常時、バイタルサインを取得している。しかも触れればさらに詳細なそれが取得できてしまうので、通常、初対面の人間に触れることはなく、もし触れる時などにはそう断りを入れるのが慣例となっていた。
それに対してメルシュ博士はニィという感じで改めて笑みを浮かべた。
「もちろんだとも。その方が、詳しく説明する手間が省ける」
「…?」
その奇妙な物言いがどういう意味か、タリアP55SIはすぐに思い知ることとなった。
『な…え…? 脳波が…脳波が検出できない……!? 義体? 違う、心拍や血流は生身の人間のそれだ。
センサーのエラー? いやでも、異常はない筈……なのにどうして検出できないの…?』
呆然と自分を見るタリアP55SIの顔を見ながら、メルシュ博士は「くくく」と更に悪戯っぽく笑った。
「分かったかな? この体は生身だが、今の私は普通の人間ではないんだ」
タリアP55SIは我が目を疑った。通された応接室らしきところで待っているとそこに現れたのは、防護服などを一切身に着けていない明らかな生身の人間だったからだ。しかも、黒い長髪で眼鏡をかけ白衣を纏った美麗な若い女に見えるその顔には見覚えがあった。
『これが、アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士……
まさか、メルシュ博士も不顕性感染者…!? いや、ワクチンの開発に成功したのか……!?』
まあそう考えるのも無理はないだろう。なにしろ相手はあの有名な天才科学者なのだから、ワクチンの開発に成功したのだとしても何の不思議もなかったし、むしろその可能性の方が高いと思えた。その上で、
『それにしても…若い…?』
などとつい思ってしまった。確か年齢は八十を超えている筈だった。健康寿命が二百歳を超えた今では八十歳などまだまだ若い部類には違いないが、それにしても若すぎる。十代と言われても十分に通じるだろう。ニュースなどで写真は見ていたが、それよりも更に若く見えた。特に化粧などをしているようにも見えないにも関わらずだ。
その理由はすぐにピンときた。メルシュ博士と言えば再生医療や老化抑制医療の分野でも有名な人物である。しかも、自分の体を使って未承認の老化抑制技術の実験を行ったということで起訴され服役したこともあった筈だから、その実験の影響なのだろうと。
「よく来てくれたね。まあ顔ぐらいは知ってるかも知れないが、私がアリスマリア・ハーガン・メルシュだ。よろしく」
満面の笑顔と共に差し出された右手を見て、タリアP55SIは声を発した。
「バイタルサインを取得してもよろしいでしょうか?」
メイトギアは、人間の健康を守るという役目もあって、常時、バイタルサインを取得している。しかも触れればさらに詳細なそれが取得できてしまうので、通常、初対面の人間に触れることはなく、もし触れる時などにはそう断りを入れるのが慣例となっていた。
それに対してメルシュ博士はニィという感じで改めて笑みを浮かべた。
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「…?」
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『な…え…? 脳波が…脳波が検出できない……!? 義体? 違う、心拍や血流は生身の人間のそれだ。
センサーのエラー? いやでも、異常はない筈……なのにどうして検出できないの…?』
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「分かったかな? この体は生身だが、今の私は普通の人間ではないんだ」
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