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それは、ほんの数時間前までは乾ききって荒れ果てた場所だったとは想像もできない激しい雨と濁流の世界だった。この周辺の岩肌に刻まれた、五十年から百年に一度程度と思われる洪水が今まさに訪れようとしているのが容易に見て取れた。今すぐに避難しないと手遅れになる。知識がない人間でもそう感じるほどであった。
しかし、少年はその光景を見てもなお、諦めたようにその場に座り込んだだけだった。
「もういいよ……もう疲れた……どうせもう他に誰も生きてないんだろ? だったら俺一人生きてても仕方ないだろ。ここで姉さんと一緒にいるよ……あんたは一人で行ってくれ……」
唯一の心の支えであったのだろう姉の死を突きつけられて、少年の心は完全に折れてしまったらしい。
だが―――――
エレクシアYM10は少年の胸倉を掴み強引に顔を上げさせた。普通のメイトギアなら決してできない行為だった。
「お前の都合とかは知らない。お前が死にたいと言うのなら、逆に死なせてやらない。これは私の、お前達人間に対する復讐だ」
ナイフで切り付けるかのような冷たい視線に、少年の背中をぞくりとしたものが奔り抜けた。
『こいつ…狂ってる……!』
四歳か五歳、そこに映像ソフトを繰り返し見たことで身に付けた程度の知識しかない持たない少年ですら分かるほどに、エレクシアYM10の目は尋常ではなかった。
当然か。彼女は犯罪組織により違法な改造を受け、数えきれないほどの暗殺を行ってきた殺人ロボットなのだから。いくら初期化されてその当時の記憶は失われていても、自身が違法な改造を受けた異常な存在であることは、自己メンテナンスを行えば分かってしまう。だから彼女は恨んでいたのだ。自分をこのようにした人間を。
力尽くで少年を立たせ、引きずるように玄関に向かって歩く。それでも少年は逆らおうとして踏ん張った。決して勝てる相手ではないが。
「姉さん!」
踏ん張ったまま引きずられる少年が地下室に下りる階段の前に差し掛かった時にそう叫ぶと、エレクシアYM10は胸に下げていたホルスターから拳銃を抜き、一瞬の躊躇もなく階段下にいた少年の姉だったCLS患者の頭を撃ち抜いた。
「…!!」
声も出せず目を見開いた少年の視線の先で、幼い少女の姿をしたCLS患者はその場に崩れ落ちるように倒れ伏し、動かなくなる。
「これで諦めもついただろう。大人しくついてこい!」
あまりのことに思考停止した少年をなおも引きずるように歩かせ、激しく降り続く雨の中に出て、彼女は自分が乗ってきた4WD車の助手席に少年を放り込んだ。そして自分も運転席へと乗り込み、ぐずぐずにぬかるんだ谷底を走らせたのであった。
しかし、少年はその光景を見てもなお、諦めたようにその場に座り込んだだけだった。
「もういいよ……もう疲れた……どうせもう他に誰も生きてないんだろ? だったら俺一人生きてても仕方ないだろ。ここで姉さんと一緒にいるよ……あんたは一人で行ってくれ……」
唯一の心の支えであったのだろう姉の死を突きつけられて、少年の心は完全に折れてしまったらしい。
だが―――――
エレクシアYM10は少年の胸倉を掴み強引に顔を上げさせた。普通のメイトギアなら決してできない行為だった。
「お前の都合とかは知らない。お前が死にたいと言うのなら、逆に死なせてやらない。これは私の、お前達人間に対する復讐だ」
ナイフで切り付けるかのような冷たい視線に、少年の背中をぞくりとしたものが奔り抜けた。
『こいつ…狂ってる……!』
四歳か五歳、そこに映像ソフトを繰り返し見たことで身に付けた程度の知識しかない持たない少年ですら分かるほどに、エレクシアYM10の目は尋常ではなかった。
当然か。彼女は犯罪組織により違法な改造を受け、数えきれないほどの暗殺を行ってきた殺人ロボットなのだから。いくら初期化されてその当時の記憶は失われていても、自身が違法な改造を受けた異常な存在であることは、自己メンテナンスを行えば分かってしまう。だから彼女は恨んでいたのだ。自分をこのようにした人間を。
力尽くで少年を立たせ、引きずるように玄関に向かって歩く。それでも少年は逆らおうとして踏ん張った。決して勝てる相手ではないが。
「姉さん!」
踏ん張ったまま引きずられる少年が地下室に下りる階段の前に差し掛かった時にそう叫ぶと、エレクシアYM10は胸に下げていたホルスターから拳銃を抜き、一瞬の躊躇もなく階段下にいた少年の姉だったCLS患者の頭を撃ち抜いた。
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