81 / 120
決意
しおりを挟む
遂に川が溢れ谷底を一気に水が浸し始めると同時に、エレクシアYM10が運転する4WD車は谷から出る坂道を登り始めていた。しかし激しすぎる雨の為に舗装されていない道はほぼ泥流と変わらず、タイヤが空転を繰り返す。
それでもエレクシアYM10は、ロボットであるが故の絶妙なアクセルコントロールで地面を捉え、這うような速度ながら確実に坂道を登って行った。4WD車のライト以外に灯りが全くない暗闇だったが、谷底を見下ろした彼女の目には確かに見えていた。つい先ほどまで自分達がいた住宅が濁流に呑まれ流されていくのが。あと数分、脱出が遅れていれば少年もろとも流されていたことだろう。ロボットである彼女は溺れることはないとはいえ、土石流にも等しい流れに巻き込まれればいかな要人警護仕様機とはいえ無事では済まなかった可能性も高い。
もっとも、濁流からは逃れてまだも安心はできなかったが。
何度も車ごと谷底に滑り落ちそうになりながらも冷静な操作でそれを回避し、三分で下りた道を一時間かけて上り、ようやく谷から抜け出したものの、その先もやはり激しい雨で右も左も分からないただの泥の海であった。しかも明かりさえない完全な闇である。この中を迂闊に移動しては自殺行為と言えるだろう。だがここなら少なくとも濁流に流されることもない。そこでエレクシアYM10は、雨がやむのをその場で待つことにした。
何気なく少年の方を見ると、刺すような眼がこちらに向けられていた。それは紛れもなく、唯一の肉親を目の前で殺された人間の憎悪の眼差しだった。
「恨むなら勝手に恨むがいい。だが、お前のおかげで私も踏ん切りがついた。お前は確かに人間で、お前の姉は人間ではなかった。私のやるべきことが見付かったよ」
少年を睨み返しながら彼女は言った。その彼女の目には、雨に濡れた少年の体温が下がっていくのが見えていた。そこでシートを倒して荷台に移り、毛布を一枚掴み出す。
「服を脱いでこれを体に巻いておけ」
しかし少年は差し出された毛布を受け取ろうとしなかった。するとエレクシアYM10は彼の首を掴み、軽く締め上げた。
「…は、ひゅ……!」
一瞬で呼吸ができなくなり、あどけなさの残る顔が鬱血する。まぎれもない生命の危機に思考力は奪われ、少年はただ本能的に生きようともがいた。それを確かめたエレクシアYM10が力を緩める。ようやく空気を取り入れることができるようになって、頼りなげな細い体は何度も咳き込みながら生きることを望んだ。
「ふん。死にたいとか言っててもこうやって死そのものを突きつけてやれば生きようともがくのがお前達人間だ。お前達の言葉など私には何の価値もない。私の言うことに従え。でなければとことん苦しめたうえで殺してやる」
うっすらと笑みを浮かべて少年に語り掛けた彼女の顔は、彼が見た映像ソフトの中にあった悪魔やモンスターよりも恐ろしげに見えたのだった。
それでもエレクシアYM10は、ロボットであるが故の絶妙なアクセルコントロールで地面を捉え、這うような速度ながら確実に坂道を登って行った。4WD車のライト以外に灯りが全くない暗闇だったが、谷底を見下ろした彼女の目には確かに見えていた。つい先ほどまで自分達がいた住宅が濁流に呑まれ流されていくのが。あと数分、脱出が遅れていれば少年もろとも流されていたことだろう。ロボットである彼女は溺れることはないとはいえ、土石流にも等しい流れに巻き込まれればいかな要人警護仕様機とはいえ無事では済まなかった可能性も高い。
もっとも、濁流からは逃れてまだも安心はできなかったが。
何度も車ごと谷底に滑り落ちそうになりながらも冷静な操作でそれを回避し、三分で下りた道を一時間かけて上り、ようやく谷から抜け出したものの、その先もやはり激しい雨で右も左も分からないただの泥の海であった。しかも明かりさえない完全な闇である。この中を迂闊に移動しては自殺行為と言えるだろう。だがここなら少なくとも濁流に流されることもない。そこでエレクシアYM10は、雨がやむのをその場で待つことにした。
何気なく少年の方を見ると、刺すような眼がこちらに向けられていた。それは紛れもなく、唯一の肉親を目の前で殺された人間の憎悪の眼差しだった。
「恨むなら勝手に恨むがいい。だが、お前のおかげで私も踏ん切りがついた。お前は確かに人間で、お前の姉は人間ではなかった。私のやるべきことが見付かったよ」
少年を睨み返しながら彼女は言った。その彼女の目には、雨に濡れた少年の体温が下がっていくのが見えていた。そこでシートを倒して荷台に移り、毛布を一枚掴み出す。
「服を脱いでこれを体に巻いておけ」
しかし少年は差し出された毛布を受け取ろうとしなかった。するとエレクシアYM10は彼の首を掴み、軽く締め上げた。
「…は、ひゅ……!」
一瞬で呼吸ができなくなり、あどけなさの残る顔が鬱血する。まぎれもない生命の危機に思考力は奪われ、少年はただ本能的に生きようともがいた。それを確かめたエレクシアYM10が力を緩める。ようやく空気を取り入れることができるようになって、頼りなげな細い体は何度も咳き込みながら生きることを望んだ。
「ふん。死にたいとか言っててもこうやって死そのものを突きつけてやれば生きようともがくのがお前達人間だ。お前達の言葉など私には何の価値もない。私の言うことに従え。でなければとことん苦しめたうえで殺してやる」
うっすらと笑みを浮かべて少年に語り掛けた彼女の顔は、彼が見た映像ソフトの中にあった悪魔やモンスターよりも恐ろしげに見えたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる