あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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獣人と狩人

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「あんたはどうして、どっちにもなれないの?」

「まったく、気持ち悪い奴だ。お前みたいな出来損ないは俺達の子じゃない」



少女が覚えているのは、そう言って、人間とも獣ともつかない姿の自分をなじる両親と、その両親と一緒に嘲笑を向ける兄と姉の姿だった。

正直もう、顔もはっきりとは思い出せないけれど、それでも心底自分を侮蔑し嘲笑っていたことだけは心に強く刺さっている。

だから本当はさっさと死んでしまいたかった。自分なんてこの世にいてはいけないのだと思っていた。

なのに、自分の体は死ぬことを拒み、生き延びよと命じてくる。耐えがたい空腹に抗えず、決して獣のそれとは言えない能力でなんとか細々と糧にありついてきた。

けれど、本格的に雪が降り始めるに至って、未熟で非力な彼女でも捕えることができる小動物の姿も見えなくなり、いよいよどうにもならなくなってきたのである。

もう三日も何も食べていない。彼女にとってはあまり美味しく思えないのでどうしても獲物が獲れなかった時に仕方なく食べていた果実もすでに見当たらない。

肉体の方はじりじりと焼け付くような焦燥感で彼女を突き動かそうとするのに、肝心の食料となるものが見付からないのだ。

だから彼女は、

『やっと…これで死ねる……』

わずか六歳にもならない幼子とは思えない諦観でもってそう考えた。

見た目には鼠色の毛皮に覆われた獣のように見えつつも実態は人間の子供よりは強いという程度の能力でここまで生き延びられただけでも、実は彼女の知能そのものは決して低くないことを示しているのかもしれない。

けれど、それも限界だった。

雪が降りきしきる森の中で横たわる少女を窺う視線。

狼だった。狼の群れが、少女の様子を窺っていたのだ。

漂ってくるその匂いに戸惑いながらも、しかし決して自分達の仲間ではないことは悟っているのだろう。だからこうして成り行きを見守っている。

が、その時、

ビン!と固く鋭く、まるで小さな雷のような衝撃が、一頭の体を貫いた。その狼の首の辺りから、いつの間にか細く長い何かが生えている。

矢だ。一本の矢が、引き締まった筋肉の鎧を付き通して頚骨にまで達し、その中の神経節を貫いていたのである。

こうなればいくら森の生態系の頂点に君臨する狼といえど、成す術もない。ビクビクと断末魔の痙攣を起こしつつ積もり始めた雪の上に倒れ伏した。

まったく予測していなかった仲間の突然の死に、狼達は慌てた。生存本能に従い危険から逃れることを優先する。

少女のことはすでに頭になかった。

そして……

狼達の気配が完全に消えた後、ようやく別の気配が森の中に生じた。

森の最強の狩人たる狼にさえ存在を察知させることのなかった<それ>は、幾重にも編み込まれた獣の毛皮で全身を覆い一見しただけではとてもそうは見えなかったものの、弓を手にした、紛う方なき<人間>なのであった。

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