あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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獣の一匹

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パキパキと音を立てつつ揺らめく炎に、狩人の姿が映し出される。

しかし、自分の家に帰ってきたというのに男の表情はどこか陰惨な印象があり、どうやらこれ自体が普段の彼のかおなのだというのが分かった。

しかも今回はさらに、<余計なもの>まで持ち帰ってしまったのだから、暗い表情になるのも無理はないのか。

獣人の少女。

体格的には人間の五歳かそこら程度にしか見えないが、飢えて気を失うくらいだからもしかすると実際の年齢はもう少し上かもしれない。

だが、正直なところ、そんなことはどうでも良かった。

『俺は何を考えてるんだ……』

強い後悔が男の胸をギリギリと掻き毟る。

獣相手に<同情>もなにもないだろうに……

けれど、少女の様子に、過去の自分を思い出してしまったのかもしれない。

十二歳で人間の世界に見切りをつけてこの森に入り、獣に逆襲されて死んだらしい狩人が手にしていた弓と矢を拾って以来、完全に自己流で狩りの真似事を始め、しかしどうやら元々才能があったらしく、放棄された狩猟小屋らしき廃屋を住処に得て、彼は、狼をはじめとした危険な獣が住むこの森で、自身も<獣の一匹>として今日まで生き抜いてきたのだ。

そんな自分よりも明らかに幼い少女に同情してしまっても不思議ではないのだろうが、彼は本来、そんな人情家でもなかった。だから戸惑っているというのもある。

一方、彼の葛藤など知る由もない少女は、すうすうと穏やかな寝息を立てている。よっぽど安心したのかもしれないその姿は、顔まで鼠色の毛で覆われていることと獣そのものの形をした耳以外は、普通の人間の子供と変わらなかった。

もっとも、だからこそ狩人は戸惑っているのだろうが。

これがもし完全な獣であれば、狼のついでにその場で解体して肉や毛皮を持ち帰っていたに違いない。

万が一気まぐれで生かしたまま連れ帰ったとしても、結局はペット兼<非常時の食料>でしかなかったはずだ。

だからもしものことがあっても心が痛むこともないと思われる。

なのに……

『……鼠みてえな色に虎みてえな模様……ホントになんなんだこいつは……』

彼がかつて仕留めた鹿の毛皮に包まれながらも、頭だけは見えていて、揺らめく炎が浮かび上がらせるそこが虎縞のようになっていることに気付いた狩人がそんなことを考えていた。

とは言え、無学ゆえに<知識>という点では厳しい部分もある彼では、<変な獣人>としか認識できない。

『……寝るか……』

いくら考えても結論が出ることはないと悟り、狩人は部屋の隅に積み上げてあった鹿の毛皮を手に取って体に巻き付けて壁にもたれ、しかしその中では鞘に収まった短刀を握り締めたまま、浅い眠りに落ちていったのだった。

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