あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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余談

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『虎みてえな模様』

少女の毛皮を見て彼はそんなことを思ったが、彼自身は本物の<虎>を見た経験はない。子供の頃に絵本で見ただけだ。

まあこの話はただの余談なので脇に置くが。



狩人は、完全に深い眠りに就くことはなかった。獣の襲来に備えてである。

一応、この小屋は、獣除けとして、外壁に<熊の毛皮>が、防水も兼ねて貼り付けられていた。さらに、<熊の糞>を練りこんだ土を、隙間充填材として用いてもいる。

実を言うとこの辺りには熊は生息していないものの、動物の本能が危険を告げるのか、狼も遠巻きで様子を窺うだけだった。

もっとも、獣達にしても実際の熊を知らないからこそ、警戒しているのかもしれない。もし本物を知っていれば逆にここまでではなかった可能性もあるだろうか。

この<獣避け>は、現在の住人である狩人が施したものではなく、元々の所有者または利用者が施したものだと思われる。

これもまた余談なので同じく脇に置くとして、一応の安全は確保されているものの、狩人はそれに頼り切ってしまうことはない。

狩りを終えて家に戻ればこれといってすることもないので、浅い眠りを夜明けまで取ることで体を休めていた。特に冬の間は火を欠かすことができないこともあり、何度も起きては薪を足すことも行う。

はたはたと、やや湿気の多い重い雪が降りしきる微かなそれ以外はほとんど音のない森の中で、<獣のような人間>と、<獣でも人間でもない少女>が、互いに思いもかけず身を寄せ合うようにして一夜を過ごした。



「……」

そうして、狩人は、起きているのか寝ているのか判然としないいつもの眠りを経て、夜明けの気配を察して頭を持ち上げた。

普通に考えれば疲れが取れそうにないようにも感じられるかもしれないものの、彼にとっては完全に体がそれに慣れてしまっていて、問題はない。

わずかに身じろぎし、自身の体に特に異常がないことを確認。これも彼にとっては日課だった。

その上で、火が小さくなった囲炉裏(のようなもの)に新たな薪をくべ、鹿の毛皮に完全に包まって何か別の獣のようになっていた少女の姿も確かめる。

毛皮がゆっくりと小さく上下しているので、生きているのは間違いないだろう。

と、狩人は自分が安堵していることに気付いてしまった。

少女が生きているのを確かめられて。

『…ホントにどうしちまったんだ、俺は……』

人間に絶望して見限ってここに来たというのに、厳密には人間ではないとはいえこんな厄介者を拾ってきてそれが死んでなかったことにホッとするとか……

彼にとっては有り得ないことばかりなのだった。

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