あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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俺には分からないんだ……

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ウルイにとってキトゥハの<お説教>は、どんな怒声や罵声よりも届いた。

親をはじめとした周囲の大人達の戯言など一度だって納得できたことがなかったのに、キトゥハの言葉なら一言一句ちゃんと聞かなければいけないと素直に思えた。

全てが腑に落ちた。

それでも……

それでも敢えて問う。

「……俺には、こいつに、美味いものも食わせてやれないし、綺麗な恰好もさせてやれないし、友達も見付けてやれない……

いつ潰れてもおかしくないボロ小屋に住んで、起きて狩りをして食って寝るだけの生活しか与えてやれない……

本当にそれでいいのか……?

それでこいつは満足できるのか……?

俺には分からないんだ……」

イティラの寝顔を見ながら、ウルイは絞り出すようにキトゥハに本音をぶつけた。

そんな彼の<想い>も、キトゥハは侮ることなく受け止めてくれる。

彼の実の親は、子供が『何故?』と問い掛けると、

「そんなくだらねえことかんがえてないで働け!! 働かねえ奴にメシはねえんだよ!!」

としか言わなかったというのに。

だが、今なら分かる。あの大人達は<答>を持っていなかったのだ。自分がその問いに答えられるだけのものを持っていないから、それを誤魔化すために話を逸らしていただけなのだ。

『働かねえ奴にメシはねえ』

などと、夜が明ける前から、宵の口に食ったメシが腹の中から消え失せるまで働かせておいて、それで一言問い掛けただけで『働かねえ奴』と。

そんな連中の何をありがたがれと言うのか? 幼いウルイが稼いだ金を、酒や賭け事に使って溶かしてしまうような奴らの何を。

まったくもって何もかもがキトゥハと違いすぎる。

無知で拙い自分の言葉にキトゥハは耳を傾けてくれる。だから自分もキトゥハの言葉を聞ける。

そしてこの時も……

ウルイの本音を聞き届けた上で、キトゥハは応えた。

「お前は、自分が信じていない者達が唱えていた<幸せ>の方を信じるのか? お前自身がその目で見て、耳で聞いて、肌で感じてきたイティラの姿よりも? 

おかしいとは思わないか……?」

「……!?」

ウルイはギョッとしたように僅かに顔を上げ、上目遣いで、自分を静かに見詰めるキトゥハを見た。

「……」

けれど、どう応えていいか分からずに強張ってしまう。

そんなウルイの代わりに、穏やかでありながら毅然とした声で応える。

「お前は、自分の<迷い>から逃げたくて、信じてもいないその<幸せの形>を言い訳に使っているだけなんじゃないのか……?」

ぐうの音も出なかった。

キトゥハの言う通りだった。

言われてみれば確かに、どうして自分は、あれほどまでに嫌っていたはずの大人達が唱える<幸せの形>を真に受けていた?

何故それが理由になると思っていた?

彼女が自分に向ける笑顔から目を逸らすための理由に……

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