あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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年頃

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完全にとは言えないにせよ、両親や兄姉に対する恨みから解放されたイティラは、ますます表情が柔和になってきた。

それに伴い、時折、何とも言えない色香を持つ表情をするようにもなってきた。

特に、ウルイを見詰める時などには。

もっとも、それはイティラ自身も気付いていないようだったが。

とは言え、それを向けられる側であるウルイとしては、彼女のことをよく見ているからこそ、濡れたような目で自分を見る彼女に気が付いていた。

『まあ……イティラも年頃だしな……』

そんな風に考えて納得するように自分に言い聞かせていた。

彼は、思春期に入る前に人間社会を捨ててきてしまったので、男女にまつわることについてはまったく疎かった。

キトゥハもさすがにその辺りについては教えようにも女性がいなかったので、教えようもなかった。キトゥハの娘はその頃にはもう人間と結婚して家にも帰ってこなかったし。

ちなみにキトゥハの娘は、自分は天涯孤独だと偽って人間と暮らしていたらしい。

自分が獣人であることを隠すために。

それはある意味、幸せに暮らすための<嘘>だった。実際、夫が病に倒れるまではとても幸せに暮らしていたのだという。

そうやって幸せに生きるために敢えて嘘を吐くこともあるのなら、

『嘘を吐くな!』

という言い方はむしろ適切ではないのかもしれない。

問題なのは誰かを傷付けるために嘘を吐くことなのだろう。

キトゥハは娘が愛する者と暮らすために自分のことをいないものとしていたことについては、まったく気にしていなかった。彼にとって大切なのは、

『我が子が幸せに生きること』

であって、そのためなら自分の存在などなかったことにしてもらっても構わなかった。

別に子供の世話になるつもりもなかったし。

獣人も人間と同じように年老いた親の面倒を見ることはあるものの、同時に獣の生き方をする者もおり、そういう者は子供に面倒を見てもらうのではなく、自分の力で生きられなくなればそれは自らの命の終わりを意味すると承知している。

そしてキトゥハもそうだった。だからあんな人を寄せ付けない場所に居を構えていたのである。

などと、少し話が逸れてしまったが、とにかく男女の機微について学ぶ機会のなかったウルイは、その点については<朴念仁>以外の何物でもない。

ただ同時に、『相手を敬う』ことができることで、イティラのことも決して蔑ろにはしない。

自分にはできないことをしようとするからといって彼女を避けたりもしなかった。

さりとて、どうもそれを自分に向けているらしいという点については、

『他にいい男がいればなあ……』

とも思っていたのだった。

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